「最初にお前と宿屋に泊まった時は散々だったな…。」

 ふっと笑みを漏らすフェリオに、フウもそうですわねと同意した。
 大騒ぎをして一睡も出来ないうちに、夜が明けていたように思う。そして、そこから先の旅だとて、様々な事があった。
 見上げれば、夜空を彩る星々が今にも落ちてくるような、目眩ににた感覚にフウはふと目を閉じた。
 思い出が走馬燈のように…とは言わないまでも、思い出すのはやはり旅の記憶だ。

「明日は魔王にお会いするのですね。」
「ああ。」
 共に肩を並べて、フェリオも空を見上げているようだった。
親しい感情だとフウは思う。家族のようではなく、ただの友でもなく。あまやかな恋人の様な関係でもない。
 それでも、心の奥に潜む甘い疼きを今は見ない。

 彼は掛け替えのない、供であり戦友なのだから。

「信じておりますわ。きっと、ふたり無事に戻ってこれるように。」
「…。」
「フェリオ…さん?」
「フェリオでいい。」
 囁かれる言葉に、フウは頬を染める。
 顔を向けると、困った表情でフェリオが笑った。
「ずっと言おうと思ってたんだが、さん付はどうも他人行儀で困るよ。呼び捨てにしてくれないか?」
「親愛の情を込めて…のさんですのに。」
 クスクスと笑うフウは、それでも(フェリオ)と呼び掛けた。
「ああ、すっきりした。」
 それに釣られて、フェリオも笑う。
 軽やかな笑い声は、星空に響いた。  


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