とても良い夢を見ていたと、フェリオは思う。
起きてしまうのが惜しいような、そんな夢だった。勿体ない事に、内容を忘れてしまっていた事だけが、どうにも心に残る。
 仄かに香る、柔らかな匂いが原因だったのだろうと、フェリオはゆっくりと瞼を引き上げた。  

「具合はいかがですか?」

 唐突に降ってくる声に、一瞬息を飲む。
3児の母様
覗き込んでいたフウとまともに視線が合い、起きあがる事も出来ずに硬直する。
そうして、自分の後頭部が彼女の太股であることに気がついた。
 
 …非常に気持ち良い。

「治癒魔法はお掛けしましたが、まだ痛むところがあるでしょうか?」
 うっかりと、瞼を再び閉じそうになっていたフェリオは、腕でもって膝枕の呪縛から逃れ、慌てて礼を告げ、場を取り繕う。
「いや、全然平気…というか、あれ?あの、アルシオーネとかいう…あれ???」
「取り敢えず、お帰りになって下さった様子ですわ。」
 フウは瞳を細めて笑う。フェリオは頬を顔を赤くして後頭部を掻いた。
「そうか、その…いや、足手まといになって悪かったな。」
「いいえ。」
 フウはふるりと首を横に振る。
「大事なことを教えて頂きましたので、良かったですわ。」
 何の事だかわからないフェリオは、疑問符を頭上に浮かべたまま首を傾げた。


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