しかし、クウの剣は刺さる事なく床に落ちる。それを追うように、彼女の身体も床に崩れ落ちた。
 驚愕に目を見開くフウの前で、ベッドに横たわっていた女性が身を起こす。
流れる様な金の髪。美しい翡翠の瞳は孤に歪んだ。

「もう、貴方の役目は終わったわ。私の欲しい者を連れてきてくれた。」

 クスクスと鈴の鳴る声がした。

「貴方は、一体…。」
 姉の様子に、表情を強張らせるフウに女性は床に細い足首を落とす。身体のラインが露わな薄い服と髪はまるで女神のようでもあった。

「私が魔王エメロード。」

 しかし、女性はそう告げて微笑んだ。

「貴方が、魔王?「嘘だ!姉上!」」
 フウの声をフェリオが遮った。
「フェリオ…。」
 エメロードは僅かに眉を顰めて、しかし、微笑む。
「邪魔な勇者を排除してしまいましょう。もう少しそこで待っていてくださいね、フェリオ。」
 壁に戒められたまま弟を一瞥し、エメロードは両腕をゆっくりと持ち上げる。  「姉…上?」
 変わり果てた姉の様子に、フェリオは言葉が無い。
しかし、次ぎの瞬間にはフウの悲鳴が響き渡っていた。
 圧倒的な攻撃力の差に、フウは手も足も出ず、気付けば床に叩き付けられている。 身体のあちこちがギシギシと痛み、血が流れ落ちる。
 起きなければと、脳裏で幾ら叫んでも身体は動く事をしない。
 これが、魔王と呼ばれる者の実力なのかと、フウは驚愕に唇を噛みしめる。
エメロードは床に伏したフウに、特別な興味を頂いた訳でもなく、恐らくはとどめを刺す為に、彼女の側に歩み寄った。
 
「やめてくれ!どうしてなんだ、姉上!!!」

 弟の叫びに、エメロードはゆっくりと顔を向けた。    


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