「此処は魔王の…ってあれ?」

 勇み足で飛び込んだフェリオは、肌も露わな衣装に身を包んだ褐色の女性に目を剥いた。何処か似たふたりは、かなりの美貌の持ち主。勿論かなりのナイスバディだ。
「いきなり何さらすんや…!!!!」
 三つ編みを頭の上で結わえた女性が、喰ってかかれば、もうひとりの女性がそれを宥めた。
「タータったら短気なんだから。」
 うふふと笑う女性に、タータはタトラ姉さまと呼び掛ける。
「あの、此処は魔王がお住まいの場所ではありませんか?」
 遅れて入って来たフウは尋ねると、タトラは似てるけど違いますわと笑った。
「よくお間違えになるんですけど、お隣になるんです。」
 えぇ?と顔を歪めたフェリオに、腕組をしたまま怒った表情のタータが言葉を続けた。
「と言っても、軽く2、3キロは離れてるけどな。」
「…それが隣…?」
 ええ、と微笑むタトラにふたりを揶揄する様子もない。大真面目なのだと気付き、フウは感心したようすで頷いた。
  名を挙げたいご様子の方々が、沢山奥を目指していかれましたから間違いないでしょう。もっとも誰も戻っていらっしゃいませんけれど。」
 ほほほと笑うタトラに、フェリオはうんざりとした表情になった。
「それは申し訳ありませんでした。魔王は女性だと伺っていたものですから。」
「酷い言いがかりや!」
 未だに憤慨するタータを宥め、タトラはフウとフェリオに問いかけた。
「折角お逢いしたんですから、お茶でも飲んでいかれませんか?田舎暮らしですので、旅人のお話が何よりも楽しいですから。」
「では、お言葉に甘えさせて頂きますね。」
 


   茶飲み話しに花を咲かせていれば、話題は自然と魔王のモノになる。
「なんだか、魔王はセフィーロの(王族)と縁のある者だという噂だ。」
 タータの言葉に、フウは小首を傾げる。
「旅を出る際に、国王はそんな話はひとつもなさいませんでしたわ。色々悪さをされてお困りのご様子ではありましたけれど。」
「王様は何もご存知ないのでしょうか?」
 タトラはそう告げ、そしてフウを見つめる。
「このアタリではセフィーロの王族は、創造主に選ばれた特別な人間で(人智を越えた力)を持っていると言い伝えがありますわ。魔王は凄まじい力を持っているという噂ですし、同じなのかもしれませんね。」
「それは困りましたわ。」
 フウは微笑んで、お茶を飲み干す。
「でも、お伺いしない訳には参りませんわね。」
 


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