…荒野のど真ん中にいきなり現れた和菓子店に戸惑うしかない。狸に化かされたかとも思ったが、ふたりは暖簾を潜って見た。
「へい、らっしゃい。」
 寿司屋かとも思える野太い男の声に、フウは目を丸くした。
小柄な少年が酒瓶を抱えて店番をしていて、奥の調理場で働いているのは体躯の良い男だった。
「ジェオ〜お客さん。」
「ザズ、店番はお前だ。」
 ぶつぶつと文句を言いながら、ジェオは愛想よく笑った。
「何がご入り用ですか?」
 そう問われ、釣られて視線を落としたフェリオは並べられた甘味のあまりの甘ったるい香りに口を抑える。
 嫌いじゃない。嫌いではないが、ここまで甘いと胸焼けする。
 思わず顔を反らせば、硝子ケースの上に玩具が山積になっているのも目に入る。近所(がどこにあるのかよくわからないが)の子供達にとっては駄菓子屋と同じ扱いなのかもしれない。
「羊羹がとても美味しそうですわ。貴方のお店ですか?」
 フウの問いかけに、ジェオは困った様で眉を下げ、後頭部を掻いた。
「いや、うちの大将はイーグルっていうんだが…。その、お得意様に羊羹を届けに行ったまま、どこへ行っちゃったんだか。」
 ジェオはそこまで行って大きな溜息を吐いた。
「お陰で人手がたらなくて、アルバイトを雇わなきゃいけなくなるし…。」
そのまま、愚痴々と呟き始めたのは、大将の悪口に違いない。
 フウは笑みを崩さぬまま、話の腰を折ろうと話し掛けた。
「それは、ご苦労さまですわ。
 あ、でも私たち買い物に伺ったのではなくて、道をお尋ねしたくてお邪魔したのですわ。
 魔王のお住いがこのアタリだとお伺いしたのですが…「あ〜〜〜〜!!!!」」
 フウの言葉を遮る叫びと共に、ガッタンと盛大に音がした。
見れば、カルディナが木枠を地面に投げ出し、フウを指さしている。
「あらあら、人を指さしてはいけませんわ。」
 しかし、あくまでもフウに動揺はない。
「待ち伏せをしとったかいがあったっちゅうこっちゃ、うちと勝負しいや!!」
「こらバイト!粗末にあつかうんじゃねえ!!!」
「あんさんは黙っとき!これは、女と女の勝負やねん!!」
 鼻息も荒いカルディナに、あらあらとフウが微笑む。(女同士なら俺は関係ないな)とフェリオは頷いた。

「なんの勝負かしらねえが、店で喧嘩は困るぜ。外に出てするか、店の中で穏やかに出来る勝負にしてくれ。」
 ジェオの台詞にちらと視線を走らせれば、ショーケースの上に真新しいトランプ箱が積まれた籠が見えた。そこから無造作に箱を手にして、フウはカルディナを見た。 「これはよろしいでしょうか?」
「ええで、うちはカード大得意や。それで、どっちらさんがうちと勝負してくれるんや。」



「俺が相手をしよう」
「私がお相手致しますわ」