「止むを得ません。降りかかる火の粉は払わなければなりませんわね!」
 剣を構えたフウにカルディナはにやりと笑った。
「ええで、やろか。」
 クスリと微笑んだカルディナは、手にした扇でゆっくりと舞い始める。
「なんだ、コイツ…。」
 フェリオがそう告げた途端、彼の剣はフウに向かって振り下ろされた。
寸でのところでそれを交わしたが、フェリオの剣は尚もフウを襲う。
「フェリオさん!?」
「わからねえ、勝手に、身体が…っ。」
 困惑した表情で何とか逆らおうとするものの、止めるどころかその動きは激しさを増していく。
 なんとか凌ぐが、元々剣技は、フェリオの方が勇者であるフウの上を行く。
「うちは幻惑師やさかい、操るのはお手の物や。兄ちゃんが素直に操られてくれて、嬉しいわ!」
「ふざけやがって…!」
 両手両足を踏ん張り、抵抗しようととすれば、カルディナがクスリと笑った。
「お、健気やね、兄ちゃん。」
 まま大きく手を振り上げると同時に、フェリオの身体もフウに襲いかかる。
「畜生、やれ!!」
「わかっておりますわ!」
 フウは剣を投げ捨て、風の魔法を叩き付ける。フェリオの身体を巻き込んだそれは、カルディナの身体をも直撃した。
 ふたり纏めて風に切り裂かれ、地面にたたき付けられる。
「情け容赦ないお嬢さんやな。うちの大事な商売道具になにさらすんや。」
 後頭部を撫で、カルディナは腰をさすった。その横でフェリオは完全に気絶している。
 彼女に剣を突きつけて、フウはにこりと微笑んだ。

「勇者のたしなみですわ。」


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