「とにかく、先に進みましょう。」

 歩き続けると、荒れた大地が広がる場所と、そこに現れた中華料理屋を見つけた。  …荒野のど真ん中にいきなり現れた中華料理屋に戸惑うしかない。
しかも、扉には律儀に(営業中)の看板が下がっていた。
「どなたを相手に営業中なんでしょうか?」
 フウは頬に指先をおき、小首を傾げる。フェリオも眉間に皺を寄せながら答えを探した。
「…ハゲタカかなんかじゃねぇのか?」
 ハゲタカが箸を使って中華料理を食べるかどうかは別としても、店を覗き込る失礼なふたりに、店内から叱咤の声が響いた。

「何を言う、失礼な奴らなのじゃ!」

 響いた声はまだ少女のようだ。そして、遠慮がちに扉が開く。支えているのも素朴な顔をした少年だ。
「わらわは、人間を相手に商売しておるぞ!、サンユン運べ!この者達に食べさせるのじゃ!」

ほたてのほ様


 いつの間にかテーブルの上にラーメン鉢がふたつ置かれていた。茹ですぎてヨレヨレになった麺と、これはうどんの汁か(関東)と思わせる墨汁のような液。上に乗っているのは、食材なのか残飯なのか…思いきり食欲をそそらない料理に、固まった。
「すみません、料理人のチャアン爺が腰を痛めて寝込んでしまって、アスカ様がお造りなっているのですが、なにぶん…。」
 事実を事実として認めているらしいサンユンの声は、どんどんと細くなる。
「いや、喰えば食えそうだ。材料は普通のもんなんだろ?」
 あまりにも気の毒に見えたのか、フェリオはバンバンと少年の肩を叩き、ラーメンらしきものを口に入れる。けれど、即座に顔を青くしてトイレに駆け込んだ。材料はまともでも、物質としてかなりなものになっているらしい。

「どんな化学反応を起こしていらっしゃるのでしょう、興味がありますわ。」
 
 フウは同情するでもなく、酷く感心した様子で頷く。そして、アスカに微笑みかけた。
「こんなレアなものをお造りになるなんて、素晴らしいですわ。」
「そ、そうか?そう思うか?」
 ええと微笑むフウに、アスカはすっかり懐いてしまう。

ほたてのほ様


「はい、成分にとても興味はありますわ。
 でも、残念ですけれど、私たち食事に伺ったのではなくて、道をお尋ねしたくてお邪魔したのです。魔窟ってこのアタリだとお伺いしたのですが…」
「ちょっと、いい加減な事ふきこまないでくれる!?
そうでなくても、その小娘の料理で客のひとりだって寄りつかないのに!!!」
 厨房から出てきた女は、フウにおたまを突きつける。そうして、ギョッと目を剥いた。
「まぁ、アルシオーネさんお久しぶりです。」
 会釈をしたフウにチャイナドレスにエプロンという格好のアルシオーネはギイイと呻いた。
「何暢気に挨拶をしてくれるのよ!私と勝負しなさい!!」
「よくお似合いですよ。」
「やかましい!!!」
 服を脱ぎ捨て、いつも衣装に変わったアルシオーネがフウに喰ってかかる。
「此処から先は一歩も通さないわよ!!」



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