「きゃぁ!!」
 故意か偶然か、攻撃を避けようとしたフウの両手がアルシオーネのひらひらとした衣装をがっちりと掴んだ。
「なにするのよ…!!!!」
「おいっ!!!」
 そのままぐらりと体勢を崩す。慌てて留めようとしたフェリオだったが、小柄な上に人間ふたりを支えるだけの力もなく、残念な重力に従って湖面に落下した。
 全身びしょぬれになったアルシオーネが、岸に這い上がった頃にはふたりの姿は消えていた。


「おい、大丈夫か?」
 木陰に隠れた岸に泳ぎつくと、フェリオは抱いていたフウを押し上げた。
ゲホゲホとえづくフウを横目に、岸に上がったフェリオは犬の用に頭を振って水しぶきを飛ばす。
 そして、服を絞ってからブーツを脱ぐ。
「吃驚したぞ、後ろを向いたら沈んでるんだから。」
 苦しそうに、目を充血させたフウは頬も赤く染める。
「…泳ぎは苦手なんです…。」
 か細い声で答えるから、溺れ掛けたのが余程恥ずかしいのだろうと、フェリオは他に得意な事はないのかと苦笑混じりに問う。
「………運動全般苦手です。」
 フウの台詞にフェリオは一瞬息を飲み、その後腹を抱えてわらい出す。
「勇者のくせに、運動が苦手ってお前…。」
 どんな笑い話だよと、止まらないフェリオに、フウは頬を膨らませる。

「もう知りません!」
 
 プイとそっぽを向いたフウに流石に笑いすぎたかと反省したフェリオだったが、この後一週間口を聞いて貰えずに、辟易する填めに陥った。



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