圧されるように、崖の先へと追いつめられる。
「あらあら、どんな悪巧みをしているのかしら?」
 妖艶な笑みを浮かべて、アルシオーネがその指先を二人に向けた。
「私との魔力にもかなり差があるようですわ、まともに戦って退ける事が可能かどうかわかりませんわね。」
 フウは、防御魔法の体勢を取りながら、フェリオに目配せをする。
「…へいへい、俺が行けばいいんだな。」
 フウと息を吐くと、フェリオは剣を構えて、フウの前に立つ。アルシオーネの瞳がフェリオを捕らえて鋭さを増した。
 血の色をした唇を舌で舐め取る仕草は、獲物を嬲る猛獣に似ている。

「弟の遺体を見せてやったら、あの女はどんな顔をしたのかしらね。」

 アルシオーネの言いようにフェリオは微かに顔を歪めたが、彼女から確かに感じる憎悪に嫌悪の感情しか浮かばなかったが、いたぶるつもりな即死するような攻撃はしかけてはこないとフェリオは踏んだ。
「俺はそう簡単に死体になんてならないぜ。」
 そして、身長ほどもある長剣を振り回しているとは思えない身軽さで、フェリオはアルシオーネに斬り挑む。魔法では圧する事が出来ても、物理的な剣の重さには彼女の持つ杖では防御しきれない。一瞬僅かに、体勢を崩したアルシオーネをフウは見逃さなかった。
 
「戒めの風!!」

 咄嗟に防御魔法を唱えたアルシオーネに、フェリオはまま体当たりをする。
崖の先にいた二人は、支えるべき地面を無くして、まま下へと姿を消した。

「フェリオさん!」

 慌てて駆け寄ったフウの目に、剣を岩肌に突き刺してぶら下がっているフェリオの姿が映る。本当に下まで落ちてしまったのか、アルシオーネの姿は見えなかった。 
 それでも、魔法を使う相手が簡単にやられてしまったとは考えにくい。
フウの助けで、フェリオは早々に崖から這い上がるとさっさとこの場を後にした。


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