何度か喰らった魔法で、フウの身体は傷だらけになっていた。
額から幾筋もの血が顎に掛けて流れ落ちる。
 地に崩れ落ちるように座り込むフウに、アルシオーネは手にした杖を翳した。

「死になさい。」

 ニヤリと笑うアルシオーネとフウの間に、剣を投げ捨てたフェリオが飛び込む。
フウの身体を抱きかかえるようにして、氷の刃を背中で留めた。
「フェリオさん!!」
「馬鹿…ぼんやりしてんじゃねえよ…。」
 刃が背中を抜けて内臓に届いていたのか、大きく咽せた後の唇に血が滲む。フウは満足そうな表情を浮かべるアルシオーネを睨み付けた。
 彼女は、彼の姉への確執にかフェリオを殺したがっていたではないか。こうして、自分を庇い命が危うい彼をただ面白がっているのだ。
「可愛い顔しても、怖くないわよ。」
 うふふと余裕の笑みを浮かべたアルシオーネは、異常に高まる魔力に眉を顰める。その刹那、フウの魔法はアルシオーネを切り刻んだ。
 
「緑の疾風!!」

 鋭い悲鳴を上げて、アルシオーネは地に伏す。
身体中を切り裂く空気の渦から逃れる事が出来ずに、呻いた。
 苦痛に歪む視線に、フウがフェリオの身体を抱き起こし肩で支えているのが見えた。

「…勇者としても私に命を預けて下さった方を、アナタに殺させは致しませんわ。」


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