「事情がおありのようですし、出来れば戦いたくありませんわね。」
 そう呟いたフウはフェリオに視線を向けた。
「一か八かですが、橋を渡りましょう!」
「わかった。」
 フウとフェリオは頷き合うと、カルディナに背を向け橋を駆け足で渡り出した。橋の中程に差し掛かった頃にカルディナがフウを呼ぶ。
  
「随分と大間抜けやな。」

 そうして、懐から取り出した短剣で、橋を支えていたかずらを断ち切った。
「きゃあ!!」
 片方の支えを失った橋は、大きく揺れた挙げ句に崖と崖の間にぶら下がった一本の縄と化した。
 梯子状になっていた丸太も洗濯物のようにぶら下がっているから、必然的に、フウとフェリオもそれにぶら下がるはめになる。 
 カルディナは意地の悪い笑みを浮かべて、もう一本のかずらに剣を置いた。
「ほれ、どした? 勇者ともあろうもんが」
「そんな時もありますわ!」
 フウの強がりとも思える言葉に、カルディナはふうんと笑う。そして、もう片方のかずらを勢い良く叩き切った。
 孤を描いて崖へと落ちる橋の残骸に、てっきりフウとフェリオも落っこちると思ったカルディナは、反対側の岸へと張り付いたふたりに目を剥いた。
こうなることを予想して、最初から手首にかずらを絡めていたらしかった。ちらりと一瞥するも、それこそ縄梯子と化した橋をするすると上へ登ってしまう。

「絶対ゆるさへん、逃がさへんで!!」

 カルディナの罵声を背にふたりの姿は山中に消えて行った。


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