沈黙の森を抜け、幾つかの村を通り過ぎた山道。従者と勇者の道中は続いていた。

 崖の間にかかった頼りなげな吊り橋を前に、フウはアラアラと声を上げた。
「まるで、私達が通った途端落ちてしまいそうな橋ですわね。」
 覗き込めば、遥か下に渓流が見える。フェリオはポンと拳を叩いた。
「勇者なんだから、空を飛ぶ魔法ぐらいやってみせろ。」
「飛べたら、こうして歩いて魔王退治になんて出向きませんわ。こう、大空を行きますわ。」
 両手で羽ばたく真似をしたフウにフェリオは苦笑いをした。
「…だな。」
 フェリオは期待するのを止め、剣で欄干を突っ突いた。ただでさえ、風に揺れている橋はそれだけの事で左右に大きく振り子運動をしだす。
 青くなったフェリオの背後でフウがにっこりと微笑んだ。
「どうぞ、お先に。」
「落ちたらどうするんだよ!」
「右足が落ちる前に、左足を上げればひょっとしたら向こう側まで届くかもしれませんわよ?」
「…おまえは?」
「崖沿いに安全に渡れる場所を探しますわ。」

 魔王とはひょっとして目の前にいる此奴の事か!?

 思わず拳を握りしめたフェリオの背中に声が飛んだ。  


「ええ加減渡って欲しいんやけど?」
「いつまでじゃれ合っているつもり?」