「…少し見ない間に、大人になったのね。フェリオ。」 フェリオの言葉を聞き終えたエメロードは、両手を胸元で重ね瞼を閉じた。そして、柔らかな笑みを浮かべてこう告げる。 「さあ、私を殺しなさい。」 即す仕草で、エメロードは両手を広げた。しかし、フェリオはふるりと横に首を振る。 「戦う事は出来る、でも姉上を殺す理由は俺にはない。勿論、フウにだってだ。」 弟の言葉に、エメロードは翡翠の瞳を伏せた。白い頬に涙の筋が流れ落ちる。 「私は生きている理由がないの。ザガートを失った私には、もう何も残ってはいないのよ。」 「いいえ、ザガートさんは生きていらっしゃいます。」 二人のやり取りを黙って聞いていたフウは、初めて姉弟の間に立つ。 「私達がお会いした際に、確かに瀕死の状態でしたが、導師クレフがその命を留めて下さいましたわ。」 泣き濡れた顔を覆っていた両手は落とし、エメロードはフウを見た。 「う、そ…。」 「本当だ、姉上。ザガートは生きている。姉上の帰りを待っているんだ。」 フェリオもフウの言葉に続けて答え、そして笑った。 「ふたりに何があって、どうしてこんな事になったのか俺は知らない。でも、大切なのはこれからもう一度ふたりで向き合う事じゃないのか?」 魔王は立ち去り、そこに監禁されていた青年は恋人に解放され、操られていたフウの姉も正気を取り戻し、姉妹は感動の再会を喜んだ。 すべての旅立ちを見送り勇者とその従者は見つめあう。 「大好きです。」 「俺も、お前が好きだ。」 廃墟の中で固く抱き合いながら、フェリオとフウは微笑んだ。 数年後、セフィーロの片田舎に愛らしい子供を連れた翠の髪をした青年と亜麻色の巻き毛が美しい女性が居を求めて、住み着いた。 仲むつまじい夫婦は末永く幸せに暮らしたという、最高のHAPPY END。 〜Fin |