「いらっしゃいませ〜。」
「ぷぷぷぷ〜〜〜。」
 屋敷の玄関に設えられた受付で、金髪美女と白い生き物が二人を迎えた。

ほたてのほ様


「沈黙の森唯一の宿『創師の館』へようこそ。
 私は女将のプレセア、こっちは可愛いマスコットのモコナよ。」
「『創師の館』!?」
 素っ頓狂な声を出したフェリオと違い、フウはニコリと微笑んだ。
「セフィーロを救う『勇者』にのみ、その門戸を開くという幻の宿ですわね。」
 そうすると、プレセアは、ハァと溜息を吐きつつ首を横へ振る。
「そう言っちゃうと聞こえがいいけど、沈黙の森なんてところへ入り込む人間なんて、勇者とその類以外いないのよね〜。経営危機も甚だしいわよ。」

ほたてのほ様


 頬に手を当てて考え込むプレセアの様子に、フウも同情の眉を寄せた。
「ならもっと交通の便が良い、人の多い場所へ移られたら如何ですか?
 此処で開かなければならない特別の理由でも?」
 フウの台詞にプレセアはポワと頬を赤らめる。

ほたてのほ様


「導師クレフ様が、…今日はいらっしゃってないのだけれど、側にあるエテルナの温泉が大好きで湯治に来て下さるものだから離れられないのよ〜。」
 導師クレフと言えば、齢748歳の壮絶爺の魔導師で有名だ。フェリオも噂は聞いているものの、実際にお目に掛かった事はない。
 それでも、こんな物騒な森に湯治に来るとは、フェリオには物好きにしか思えない。なので口を付いて出た台詞も辛辣なものになる。
「そんな爺ひとりの為になんて…」
 止めた方がと続ける口をフウの手が塞ぐ。
「いけませんわ。フェリオさん、ヒトの恋路を邪魔しては…。」
 シイと唇に人差し指を付けて、フウはニコリと微笑んだ。フェリオの反論を封じると、声を潜めた。
「それに、この宿屋が無くなってしまっては、私達が困りますから。」
 強かな勇者の言葉は聞こえなかったらしく、プレセアは屋敷の奥を指さした。
「…という訳だから、どの部屋も空いているの。適当に好きな部屋を使って頂戴ね。」
 そんな接客があるかいと、フェリオは盛大な溜息をついた。


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