「いらっしゃいませ〜。」
「ぷぷぷぷ〜〜〜。」
 屋敷の玄関に設えられた受付で、金髪美女と白い生き物が二人を迎えた。

ほたてのほ様


「沈黙の森唯一の宿『創師の館』へようこそ。
 私は女将のプレセア、こっちは可愛いマスコットのモコナよ。」
「『創師の館』!?」
 素っ頓狂な声を出したフェリオと違い、フウはニコリと微笑んだ。
「セフィーロを救う『勇者』にのみ、その門戸を開くという幻の宿ですわね。」
 そうすると、美女−プレセア−は、ハァと溜息を吐きつつ首を横へ振る。
「そう言っちゃうと聞こえがいいけど、沈黙の森なんてところへ入り込む人間なんて、勇者とその類以外いないのよね〜。経営危機も甚だしいわよ。」

ほたてのほ様


 頬に手を当てて考え込むプレセアの様子に、フウも同情の眉を寄せた。
「ならもっと交通の便が良い、人の多い場所へ移られたら如何ですか?
 此処で開かなければならない特別の理由でも?」
 フウの台詞にプレセアはポワと頬を赤らめる。

ほたてのほ様


「今いらっしゃってるんだけど。導師クレフ様が側にあるエテルナの温泉で湯治するのが大好きだから離れられないのよ〜。」
 導師クレフと言えば、齢745歳の壮絶爺の魔導師で有名だ。フェリオも噂は聞いているものの、実際にお目に掛かった事はない。
 とはいえ、こんな物騒な森に湯治に来るとは、フェリオには物好きにしか思えない。口を付いて出た台詞も辛辣なものになった。
「そんな爺ひとりの為になんて…」
 途端に、頭上から落ちて来たのは杖だった。
悲鳴を上げてしゃがみ込んだフェリオを見下ろす小柄な人物は、可愛い顔立ちにも係わらず眉間に深い皺を寄せ、無駄に威厳オーラを放出している。
「爺で悪かったな。」
 フンと鼻息を荒くした人物には、フェリオだけでなくフウも目を丸くした。

ほたてのほ様


「貴方が導師クレフでいらっしゃいますの?」
 子供と呼んでも差し支えない体躯に驚かない人間はいないだろう。
「如何にも…お前が勇者フウか?」
「はい、以後お見知り置き下さいませ。」
 両手を前で重ねてちょこんとお辞儀をしたフウに、クレフは大きく息を吐いて、顔を横に向けた。
「勇者ウミも、もう少しお行儀が良いと…。ともかく、阿奴は人使いが荒すぎる…。」
 明らかな愚痴を吐き、クレフは屋敷の奥へと引っ込んでしまった。
「ああ、しまったわ。」
 急に叫び声を上げたプレセアは、羊羹とお茶が乗ったお盆を手にクレフの後を追う。
「一番奥の部屋以外は全て空いているから、好きに泊まって頂戴! 
お待ち下さいクレフ様〜〜〜お茶と孫の手をお忘れですわよ〜〜!!」
 そうして、受付には、フウとフェリオの二人だけが残された。



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