どれ位森の中を歩いただろうか、あの後には魔物一匹とも会う事なく、ただ歩き続けている。
 薄暗く辛気臭い森であることを除けば、まるで快適な散歩にも似ていた。フェリオはふ〜んと言葉を漏らしてから、前を行くフウに話掛けた。
「…で勇者殿は、どうして魔物を退治に出る事にしたんだい?」
 その問い掛けに、フウはクスクスッと笑う。
「地位と名誉とお金…では不満でしょうか?」
「嘘をつけ、そんなもの望んでいるようにまるで思えない。」
 ふふっと声を上げて、フウは不服そうな表情のフェリオに切り返した。
「では、フェリオさんはどうして、魔物退治の旅に参加する事になさったのですか?」
「そんなの簡単だ。地位と名誉と金だ。」
 躊躇いのないフェリオの返答に、フウは聡い輝きを宿した瞳を細めた。
「単純ですのね。」
「それ以外、どんな返答があるんだ?」
 別に…と呟きフウは、立ち止まるとフェリオの方へと顔を向けた。
「ああ、彼処ですね。」
「何が…?」
 視線の先には、立派な門構えの御屋敷が鎮座している。魔物だらけのはずなのにと、フェリオの目が一瞬点に変わった。
「沈黙の森にこんな屋敷があるなんて、聞いた事もないぞ!?」
 驚愕の形相でフウを見遣れば、彼女は何でもないと笑顔を浮かべていた。
「でも、現にこうして目の前にあるのですから、入ってみてはいかがです?」
 ニコリと微笑んだフウに誘われるように、フェリオは屋敷の中へと続く扉を潜った。

3児の母様




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