情景[2]


 隣にいるなかなか毛並みの良いぶうさぎが小さく鳴いた。
「ああ、ちょっと待っててくれ。」
 垣根に腰掛けて考え事をしていたガイは、『ルーク』にそう声を掛ける。黒くて真ん丸の目がきょとんと自分を見つめると、ガイの口元に笑みが浮かんだ。

 どういうつもりで、陛下はこのぶうさぎに『ルーク』などと言う名前をつけたのかは知らないが、こうしていると似ている気がした。
そんな事を本人の前で言おうものなら、真っ赤になって怒り出すだろうか?それとも、拗ねてしまうだろうか?

 ぶうさぎのルークは逃げ出したにも係わらず、姿を見つけて近付くと反対に自分から寄って来た。
 外に出掛けてはみたものの、一頭になって寂しくなったのだろうか、こうしていても、自分の側から離れずにその辺りの地面を掘り返したり、草を齧ってみたりしている。そして、時々ちらりとこちらを伺う。
 じーっと見つめると、また同じ事を繰り返す。

…なんだ。こんなところも似てる。

 幼い頃のルークの姿が浮かぶ。
無垢だった彼は、最初に見たものを母と間違える雛の様に自分の後をついてきた。ぎゅっと服を握る小さな手から、いつしか目が離せなくなった。
 成長するに従って、反抗期なのかそんなところは見せなくなっていたが、今度の一連の件で、ルークは再びそういう表情を見せる様になった。心細くて、拠り所を探す迷った瞳。

嬉しくも感じた。
幼い頃の彼に再び会えた気がしたから、そして、ルークの心情を思うとそんな自分の気持ちが申し訳なくもなる。

 再び、自分の横でぶうさぎが鼻を鳴らした。
「すまん、すまん帰るか。」
 ガイはそう言うとぶうさぎを抱き上げた。暴れもせず大人しく自分お抱かれているその頭を撫でてやると目を細める。

なぁ、ルークお前は今何をしてる?

「手紙でも書くか…な?」
 ガイは、そう呟き続けた。
「元気にしてるか?俺は、ぶうさぎの世話で毎日忙しく働いていて、へとへとになってます…なんてな。」
 そして、ふるっとガイは頭を振った。
自分をじっと見つめる『ルーク』の瞳が何故だか潤んだような気がしたから…。
「あいつ、意外と心配性だからそんな事書いたら、気にするだろうし
、泣き虫だしな。元気だって書けばいいか。」
 ガイは、くくっと笑う。
「会いに行けばいいんだ。なぁ、ルーク?」
 ガイの問いかけに『ルーク』は小さく首を傾げた。


〜fin



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