模造雪国幼馴染み[1] 「ご機嫌ですね。陛下。」 「わかるか?」 そりゃあもう。いつでも、貴方の事を見ていますから…とは言いませんけれども。 「なんか嬉しいんだよな。サフィールが協力してくれるってのがさ。」 頬杖をつきながら、窓を眺める。鼻垂れの事を考えているであろうピオニーが柔らかな笑みを浮かべるをジェイドは見つめていた。 「そうですか?」 「お前は嬉しくないのか?」 「どうでしょう。」 そう告げてから、ふと意地悪を思い付く。 「しかし、貴方はサフィールから嫌われていたんじゃないんですか?」 そうすると、ん?と首を傾げて、目を細める。そして、くすくすと笑いだした。 「お前を取られまいと必死だったからなぁ、あいつ。涙目で睨まれると、どきどきした。可愛かったじゃないか。」 ジェイドは、眼鏡を指で押し上げ溜息を付く。 「…それは、問題発言ですね。そういうご趣味がおありだったとは。」 「お前にゃ負けるよ、ジェイドの対応はロニール雪山よりも冷たかった。」 「お褒めの言葉と受け取っておきますよ。」 ピオニーはジェイドの答えを聞くと、笑みを浮かべたままくるりと椅子を回して彼の正面で立ち上がった。そのまま、手にした書類の束をどさりとジェイドの手に置く。 「エネルギー問題の創案だ。俺も一応は目を通したが、如何せん知識が無い。後はお前とサフィールにまかせる。手間を掛けるがよろしく頼むぞ。これが、先々諍いを起こしそうな最大の問題だからな。」 「御意。」 恭しく挨拶を返せば、胡散臭いと笑う。 「さて、サフィールにも渡してやらないとな。」 そう言って、もうひとつの紙束を抱えて歩き出したピオニーにジェイドは苦笑する。 「陛下が行かれなくてもいいのでは?」 「こんな楽しい事、人に任せられるか。」そう言うと笑った。 「また、お前に小突き回されながら頑張るサフィールが見られるのかと思うと楽しみだ…あ〜でも、んなこと言ったら、サフィールの奴、本気で怒りそうだな。俺のこと大嫌いだから。」 苦笑するピオニーに、ジェイドはやれやれと話掛ける。 「自分に自信の無い人間は警戒心の固まりですからね。初めて会った犬に正面から手を伸ばせば驚いて噛みつくようなものです。」 貴方が屈託がなさすぎるのです。ジェイドはそう思う。普通ならば、決して手をだしたりはしないでしょうに…と。 「そんなもんかね?」 「そういうものですよ。」 サフィールが再び彼の横に並ぼうとすれば、ピオニーはあっさりと受け入れるに違いなかった。ブウサギの名前がそれであるように、彼は今でも大切に思っている。 チクリと、痛みが胸に走るジェイドは、ふと口元に笑みを浮かべた。 ピオニーの感情が自分に対してのみ…ではないと感じた途端に受ける痛みに、浮かべる笑みは自嘲だ。 「…良からぬ事、考えてるな?」 それでも何処か楽しそうに問う皇帝陛下に、ジェイドは微笑んだ。 「ええ、確かに。」 それが、目の前の忠誠を誓った相手に対してだと言ったら、この男はどんな顔をしてくれるのだろうか? 廊下を兵士と共に歩いて来るディストを見掛けると、ピオニーは嬉しそうに声を掛ける。 「サフィール、待たせたな。」 「貴方何考えてるんですか!?牢屋にも面会室ってものがあるんですよ!?」 「なんだよ〜せっかくだから、お茶でも飲みながら話そうぜ。な。」 後は俺がするからいいよ。とピオニーは戸惑う兵士を遠ざけて、サフィールの腕を掴む。満面の笑顔を向けられ、驚いて頬を染めたサフィールに、ほほうとジェイドは嗤った。 顔を真っ赤にしながら『罪人が兵士の監視なしに皇帝と話が出来るわけないでしょう!馬鹿ですか貴方は』と叫ぶサフィールの腕を今度はジェイドが掴んだ。 「楽しそうですね〜では、私もご一緒させて下さい。コレでも私、軍人ですから。」 「ひいっ。」 兵士達が同情の眼差しで見つめている中、片腕を皇帝に、片腕を死霊に捕まれた哀れな子羊が部屋へ連れ込まれていく。 時折「ジェイドごめんなさ〜〜い!!」という叫び声が聞こえていたが、それに係わろうとする強者は、この城には誰一人としていなかった。 〜fin
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