under the sky meets again


 私塾の玄関を塞いで言い合う二人に、ジェイドは眉を潜める。これ以上の騒ぎにでもなってくると厄介だ。
 ネビリムは喧嘩両成敗が基本の人間。これを理由に、サフィールの音機関を取り上げかねない。
 厄介なことに、彼女は自分がそれを欲している事を知っている。悪戯心を存分に貯えている(そうでなければ、自分はこんな場所で学ぶ事など出来なかったのだが)ネビリムの事だ、突拍子もないことを言い出されては敵わない。

「………何騒いでる?」

 ジェイドはサフィールを見遣り、声を掛けた。途端、サフィールの眼にはジェイドしか見えなくなったようだ。なんて便利な奴。ジェイドは腹の中でそう思う。
 サフィールの手の中には、昨日と形が違う音機関が握られているのが見えた。
「あ、これ…!」
「なんだよ、釦掛け違ってるじゃないか。」
 サフィールが駆け寄るよりも早く、馬鹿はそう言って立ちあがった。スタスタとこちらへ歩いてきて、ネフリーの前で跪く。 
「名前は?」
 金色の髪がさらりと揺れた。忌々しいほどに光を増した陽光に反射する。
ふわぁ。そんな感じで開くネフリーの口を眺めていると、妹は自分と繋いでいた手を離し、ぺこりとお辞儀をした。
「ネフリー・バルフォアです。初めまして。」
 馬鹿の顔も笑顔になる。
「可愛いなぁ。ここに通うの?ジェイドの妹?」
「はい。」
 そう返事をしてから、ネフリーはジェイドの顔を見上げる。戸惑いの表情が(お兄ちゃんの友達?)と問い掛けていた。
 顔見知りという定義にも当てはまらない、真っ赤な他人だ。
「…何で俺の名前を知ってるんだ?」
「聞いた。」
 そいつはそっけなく答え、驚くほど優雅な動作でネフリーのコートの釦を外す。
見も知らない奴に、いきなり服を脱がされれば警戒しない人間の方が珍しい。なのに、ネフリーは嫌悪の表情すら見せない。惚けているうちに、コートの釦は正位置に止め直されていた。
「ほら出来た。おい、妹の服くらい、ちゃんと見てやれよな。」
 偉そうに言って、見上げてくる顔。
 
乱暴さの欠片もない、洗練された動き…この歳でか?

 ジェイドは確信する。どういう理由で、従者がいないのかは知らないが、こいつは『貴族』だ。それもかなり地位の高い奴の子供。
 無意識下の仕草は自然に身に付くものだ。そこに品位があるというのなら、品格の高い奴らの中で暮らしていたとしか、考えられない。
「聞いてんのか?」
「そこの私塾で脱ぐのに、おせっかいだな。」
 相手になどしなければいい、そう思いながらジェイドはつい声を荒げた。

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