under the sky meets again


「じゃあ、これあげるよ。」
 手にした紙を相手の鼻先にぶら下げてみる。ふわぁと口が開き、両手の指先でゆっくりと掴んだ。それを見て、自分の手を放す。
「い…いいの?」
 紙の端だけを持って、だらりと前に垂らしたまま、サフィールがそう尋ねる。
「内容は覚えてるから、別に必要ないし。」
 そう、それに僕には作ることは出来ない。
「あ、ありがと…。」
 鬱陶しい位に瞬きを繰り返して、音機関仕掛けの人形のような動きで席に戻る。…いや、戻ろうとした。
 目尻を赤く染めた顔がこっちを向いたかと思うと、自分の机からこっちにまで、あちこちにぶつかって、(ひょっとして急いでいるのだろうか?)戻ってきた。
 別の意味でなんて器用な奴だろう。この距離で息切れ出来るなんて…。
「あ、あの、これ何?何につかうものなの?」
「身体の音素を計り、その指向性と方向性を分析するもの。」
「ふ、ふ〜ん。」
 無理矢理納得して、席に戻っていく。そして、隣の奴らにそれをみせびらかして馬鹿にされている様子を遠目から眺めた。

 
「上手くやってるのね。」
 耳元でネビリムの声がした。課題用のプリントを机の上に置くと、曲げていた背を伸ばす。微かに鼻を擽る爽やかな香り。
「別に…欲しそうだからあげただけです。」
 視線を外しプリントを眺めた。5分で終わるだろう。そうしたら、残りの時間が自分のものだ。
 そんな事を思っていると、皆がペンを走らせるサラサラという音が聞こえ始めた。
ネビリムは教室を見回し、皆が課題に向き合った事を確認してから、再度ジェイドに話し掛ける。勿論その子供が、そんな課題など数分で解くことを知っての上だ。
「でも、出来上がったら、貴方のところへ持ってくるでしょう?そうしたら、それは貴方のものだわ。」
「出来たらですけど…。」
「出来るかもしれないわよ。サフィールには、音機関に関しては天性の勘があるようだから。」
「へぇ…。先生、これが終わったら、譜陣の蔵書を見せてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。」
 そう言い、クスリと笑う。「貴方は音機関よりは譜術に興味も才もあるものね。」
「そうですね。はい、これ。」
 手渡されたプリントを斜めに見てネビリムはクスリと笑った。
「全問正解。でも名前が書いてないわ、ジェイド・バルフォアくん。」
 自分を見つめる赤い瞳が楽しげに細められた分だけ、不快感が広がった。


 ずり落ちそうな本を再度持ち上げる。嫌な事まで思いだしてしまった。
あいつのせいだと、後ろに視線をやってもサフィールの姿は無い。こっちの指摘どおりに、「フェムト」が読みとれるものを試行しに帰ったに違いなかった。
 便利な奴だが、理解は出来ない。
 例え、その音機関を作成出来たとして、サフィールに使う目的などありはしないし、そもそも使えないだろう。なんの得があって、一生懸命作っているのだろうか。
 どいつも、こいつも…。しかし、その先は飲み込んだ。


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