under the sky meets again


「見せて。」
 自分を眺めてばかりで、何ひとつしないサフィールにジェイドは面倒くさそうに声を掛ける。
何をしに来たのか…を考えれば、何をすればいいのか…は思い付くものではないのだろうか?いちいち口に出さなければわからないなんて、犬以下かもしれない。
 ボールを投げてやれば、飼い主のところへ持って来て見せる事位するだろうに。
 サフィールは、溜息まじりのジェイドの言葉で初めて気が付いたように、手にした音機関をジェイドに翳した。
 緋色の瞳を細めて見つめていたが、その綺麗な眉が顰められる。
「…これ、フェムトが読みとれない。」
 そう呟くと、全ての興味を喪失してサフィールから視線を逸らした。
あ…。小さく呟くとサフィールは俯いたまま立ち尽くす。
「…ピコまでは出来たんだけど…それ以上は…。」
「だったら、いらない。欲しいのは、最少でもフェムトだから。本当はヨクトまで欲しいけど、まだそこまで構築済んでないし。」
 サフィールに言い渡すというよりは、独り言に近い言葉。
 自分の言葉によって、サフィールが再び涙を溢れさせているのがわかっても、ジェイドは気に止めなかった。
 特別に頼んだわけじゃない。

 だいたい、ネビリム先生の教室で先に声を掛けたのはサフィールの方だった。

『僕…僕それ出来るよ。』

 そう言って近付いて来た相手は、貴族の息子で、音機関好きだと先生が言っていた相手だ。この私塾は不思議な場所で、平民である自分と貴族やら富豪の子供やらが同じ机を囲む。
 彼女に言わせると、身分の差は能力に比例しない…だそうで、本来会話を交わす事などない身分の人間ともあそこでだけは平等(ふざけた言葉だが)に話しをしていた。
 サフィールは裕福な家庭に相応しい様々な音機関に関するものを与えられていて、それに対しての知識も機材も豊富だと知れた。
「何が?」
 そう尋ねると、口ごもり黙ってしまう。銀色のような灰色に近いような髪が小さな顔を隠した。ネビリム先生の髪に似ていると思うと、不愉快な気分になる。

 あの、そのっを繰り返すばかりで一向に話しは進まない相手と会話をするつもりは全くなかった…が、相手はやっと話し出す。

「ジェイドが手に持っている音機関の設計図…僕、作れると思うんだ。」
「へぇ、凄いね。」
 そう言えば、自分の邪魔をしないかと思ったのだが、餌を与えられた犬みたいに大きく体を乗り出してきた。お金持ちらしい上等な服が目に入ったが、袖口だけが妙に汚れている。
「あの、ジェイド…?」
「此処、かなりの人数がいるのに、どうして名前知っているの?」
「だ、だって、ジェイドは、頭良いし、格好いいし、運動も出来て、ぼ、僕、此処に通い初めてからずっとジェイドに憧れてて…それで…。」
「ふうん、そうなんだ。」v  これは少し嘘だ。サフィールが自分を見ていた事は知っていたし、周りの奴らに僕の話ばかりして煙たがられていることも知っていた。
「あの、此処の部分で使う鉱石はなら僕持ってるから…。」
 そう、とても自分には手に入らない高価なものだ。ああ、やっぱり持ってるんだ。
ジェイドは冷めた目でサフィールの顔を見返した。


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