under the sky meets again


 もうすぐ春が巡ってくる。
ジェイドは、雪に含まれた水分量の多さに溜息を付いた。

 雪が降っている事の方が馴れてはいた。
 だが、生きている身体はやはり太陽の光を欲する。それによって、体内維持の為の必要物質を形成していかないと機能にも異変が起きる。
 結論的に春が来たら、日光浴等の作業をしなければならなかった。
 部屋の中で本を読んでいたいと思っても、実験をしたいと思っても、そちらが優先になるのは疎ましい。時間という制限があるのは、自分にとって邪魔な事だとジェイドは感じる。
 しかし、普通の生活レベルというものにこだわりをみせる両親のためにも、今自分がもたらしている不備以上のものを背負うのは合理的ではない。
 それでも、わかってはいても、生命の維持という行為は、時々酷く鬱陶しく感じられた。

   そして、その自分ですら変えようのない時間を浪費するものがそこにいた。
 見慣れない奴が立っている。
 焦茶の防寒具を頭からすっぽりとかぶって、両手を身体の前で組み空を見上げて立っている子供。自分と歳はかわらないだろう。

 歩道の真ん中で…邪魔だ。

「おい。」
 興味などない。両手で本を抱えたまま、左右に避けてある雪の固まりに足を踏み入れる行為が嫌だった。
 己の声に、そいつはゆっくりとこちらを向く。
ぱさりと落ちたフードから見えた金は、まともに眼に焼き付いた。

「…。」

 まるで、春、いや、夏…か?。
 白い金髪と、淡い水色の瞳。土を連想させる褐色の肌。
この国では、一年を通して数回しか見れない景色とそれは良く似ていた。

 鬱陶しい季節をまるで告げにきたようで、いっそう不愉快な気分になる。
 
「…邪魔…なんだけど。」
 見慣れない容姿だったが、観光客の多い土地柄だ。そのうちの一人に過ぎないだろう。何処かの貴族か、大金持ちのご子息。従者がいないのなら、たいした位の奴じゃない。
「ごめん。」
 そいつは慌てた様子で、帽子を被り直し身体をずらした。
その時の足元のおぼつかなさから、余り外にも出ない奴らしいと推察して、自分の考えを結論づけた。
 この手の子供は、やたら気位が高いか、お話にならない程に脳みそが足らないかのどちらかだ。関わり合いになるだけ無駄、そう思っていると、いきなり伸びてきた手が、頭の上を叩いた。
 ぎょっとして、振り返る。笑顔。

「頭、寒そうだったから。」

 そいつは、にこにこと笑いながらそう言った。


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