zero is ends and start 追いかけてくる腕が再びピオニーを掴む前に、衛兵が異変に気付き駆け寄って来る。 「ウパラ様!お下がり下さい!」 兵士の一人に庇われ、自分を追ってきた女や衛兵達が争っている音だけが聞こえた。その生々しい音に震えがくる。 斬り合い肉の裂ける音が、ふいに止んだ。静かになった場に、ピオニーが問い掛ける。 「…どうしたの?…」 「どうやら、逃げ切れぬと踏んで毒を飲んだようです。」 衛兵の言葉に、ピオニーは恐怖で彼にしがみついた。 途端、腕に抱き込んでいたぶうさぎは腕から逃げ出した。 探しに行きたいという言葉も、こうして命を狙われていることが明白になってしまえば聞き入れては貰えなかった。 また、逢えるといいなという幼い願いは、ぶうさぎが何処から逃げたのか、又ぶうさぎが持つ本来の目的を顧慮すれば、すぐに叶えられるとわかっただろう。 再会は、数日後の夕餉だった。 食卓にのる肉料理が、子ぶうさぎだとわかると泣き出した皇太子に、侍従達は狼狽した。 そして衛兵によって皇太子に差し向けられた暗殺者が彼を部屋から誘い出す為に、子ぶうさぎを使った事。それを彼が気に入っていた事を知ったが、後の祭りだった。 料理されたものはもとには戻らない。 しかし、ピオニーもひとしきり泣くと、料理を食べ始める。 食が細く、殆ど食べようともしなかった皇太子は、今日のぶうさぎ料理に限って懸命にそれを口に運ぶ。 ぼろぼろと涙を流し、時折むせながら夕餉を食べる子供に、メイド達は無理をなさらずと声を掛けた。 「残していただいてもいいのですよ?」 「後はこちらで処分致しますから…。」 その言葉には頑固に頭を横に振った。 蒼穹の瞳からこぼれ落ちる雫が、料理の上にぽたぽたと滴る。味も何もわかったものでは無いが、ただ、しょっぱい。 「全部食べる。捨ててしまったら、あいつが可哀相だ。」 自分に何も出来ない。ピオニーはそう思った。 「こんなに…美味しいのに…。捨てちゃだめだ…。」 しゃくり上げながら、言葉を紡ぐ。 命を狙ってくる者達を退ける力も、こぶうさぎを助けてやる配慮も無い。自分に出来ることと言えば、目の前の料理を食べてやって、美味しかったと言ってやることくらいだ。 なんて、無力でちっぽけな存在なんだろう。それと同時に『いつか』…と心の中でピオニーは願う。 『強くなりたい。』 今が駄目でも、大きくなった時、大事なものを守ろうとした母のように、強い存在でいたい。 一向に進まない夕餉は、同情したメイド達が食事を口にすることで片付きつつあった。 content/ next |