voice is delivered ※少しだけ、先帝×の描写があります。嫌な方は注意。 「神経の伝達を鈍らせる薬です。」 今日の天気は曇です。…とでも告げるように淡々と耳元で囁かれ、耳朶に歯を立てられた。 「…っ!」 痛い。確かに痛みは感じる。けれど、こちらから身体を動かす事が出来ない。 (ジェイドが俺を殺すつもりなら、こんな手間を掛ける必要はない)それだけはわかっていた。 また、質の悪い実験でもするつもりなのかと、幼少時代の想い出が過ぎる。最もあの頃の対象はサフィールがメインだった。皇帝にするか…?いや、こいつなら、やりかねん。 「な…に…。」 魚みたいに、パクパク口を動かしてやっとそれだけの言葉になった。けれど、ジェイドの肩口に顔を埋めている状態なんで、あいつの表情はわからない。 クスリと吐息が耳にかかる。「貴方が…悪いんですよ…。」 え…? 身体だけじゃなくて、頭も動かない状態になって、気が付いたら寝台に押しつけられていた。俺を組み敷くジェイドの長い髪が視界を塞ぐ。眼鏡を外した端正な貌しか俺の視線には写らない。 引き結ばれた形良い唇。通った鼻筋。恐ろしい程澄んだ紅い瞳。綺麗に弧を描いた眉。全ては滑らかな白い肌の上に正確に置かれ、とんでもなく完成品を感じさせる。 こいつの顔だけ見れば、並み居る美女も敵じゃないだろう。 手慣れた様子で衣服をたくし上げられ、指先が触れてきて初めて、背筋に冷たいものが流れた。 …まさか…。 俺の態度に気付いたのか、一瞬ジェイドの目が細められる。 「…今頃、気付きましたか…?本当に馬鹿ですねぇ。」 冗談……だろ? 「己の軽率さを後悔してくださいね。」 ジェイド…!! 小娘でもあるまいし、まさか貞操の危機とか思うはずが無いだろ?未だに受け入れ損ねている頭に、現状は突きつけられる。滲んだ視界は、ジェイドの髪を仄かに照らす人工的な橙色を孕んで薄く変え、色を金に近付け…意識は凍った。 眼を細め病み肉のそげ落ちた頬に明るさが増し歓喜の色が浮かぶ。 歳を刻んだ皺だらけの指先が頬に触れ、途端に沸き上がる嫌悪とそれに付随した恐怖の感情は喉まで達した。ひくと震えた頭を捕らえた手の力は緩まない。それどころか、ぐっと力が籠もる。 固く乾いたそれが触れ、舌で唇を割られ侵入してくる体温は、何度受けても快楽は呼び込まない。 なあ、ジェイド。嫌がらせにしては度が過ぎているだろ? …頼むから、止めてくれ………。 言葉にならない声など、ジェイドには決して届かないと知っていながら願わずにはいられなかった。 じわり、じわりと視界は滲みを増して、閉じることも許されなかった視界が漸く現実を曖昧にしていく。それでも、ジェイドの指が肌を嬲るのは確かな現実で。拒絶を許されない身体は、容赦なく反応を相手の前にさらけ出した。含み笑いと共に『随分とお好きなんですね』と囁かれ、涙は頬を流れ堕ちる。 正直言うと、殺された方が何倍マシだったかもしれないとさえ思った。 皇帝と部下…だからじゃない。信じていた相手に此処まで裏切られるのかと胸が詰まった。こんな風に人を蔑み悦ぶ奴だったんだと、疑いすら持った事の無かった自分の『馬鹿さ加減』を思い知った。 肉を喰まはされた激痛に、飛びそうだった意識が留まったのは唯の苦痛で、悲鳴も、嗚咽も、相手を呼ぶ声も…自分のものには思えなかった。 ふいに、両手首を握られて貌の横に押しつけられる。今度は…何だ。俺の貌でも眺めて、嘲笑うつもりなのかとそう思った。心は酷く緩慢で…ただ痛みが刻む心臓の鼓動だけが響く。 なのに、ジェイドを見て息を飲んだ。 涙に滲んだ視界ですらはっきりとわかる程に苦痛に歪んだ…酷い貌。楽しんでいる様子は欠片もない。演技じゃない証拠に、感情を写さない緋石が揺れている。 なんだよ。人の身体を散々好きにしておいて、それはないだろう。 自分の快楽の為じゃないんだとするのなら、なんでこいつは俺をこんな目に合わせるんだ? ジェイド…お前は…? 手を放せと声を出したら、言葉になった。でも、あいつは抵抗するんでしょうと嗤う。出来ねえよ。出来る位なら、とっくにお前を殴って逃げ出してるさ。 こんな拷問じみた行為なんざ、願い下げだ。 俺の掌があいつの手に重なると、ふっと表情が柔らかくなった。苦渋が滲んでいた貌が一瞬緩む。幼子の如き無防備なそれは、俺の気持ちを掻き乱した。 「大丈夫だ。」 だから、そんな貌…するな。 嗚呼、馬鹿だなぁ俺は。 こんな風にされてもこいつが大事なんだと、それだけは解った。辛そうな顔をさせたくないと偽り無く思えた。 一旦は取り戻せそうだった全ての感覚が白く染まる寸で、俺はそんなことを考えていた。 〜To Be Continued?
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