花見の宴


 桜は散るさまが美しい。
 ひらりと踊るように舞いおちる。
 薄紅色の花弁が揺れる水面を持ち上げて、くいと飲み干すと、じんと胸の奥が熱くなる。
 ああ、風情があるというのはこういう状況なのですね。

 「そうですよね、陛下。」

 アスランは隣で胡坐をかき、同じように酒を傾けていた主君に向き直った。親指と人差し指の上にのるほどの赤い杯に、ピオニーは部下である人物からお酌をされている。
「お、すまねえな。」
 それでも波々と注がれたそれを、ピオニーは一息に喉を通す。ごくりと喉を鳴らすと、夜桜を照らしている譜灯に艶のある陰を落した。
 思わず見惚れ、これはと視線を逸らす。
 しかし、彼は何人からお酌を受けているのだろう。ふと、アスランは首を傾ぐ。此処にいるのは、アスランが率いる師団全員が揃っていた。今回は護衛ではなく、皇帝の花見相手が彼等の仕事。
 ひとり、ふたりで飲んでもつまらない。宴会とは、大人数で楽しむものだと主張した彼のせい(お陰?)で、今宵の状況。
 ひょとすると、ほぼ師団全員の酌を受けているような気がして、そんなまさかと否定する。そうとするならば、とんでもない量を口にした事になるからだ。
 しかし、今のところピオニーは乱れる事もなく宴会そのものを楽しんでいるようだった。
 確かに皆楽しげに、飲み歌うのはなかなかに爽快。
 少々はめをはずしすぎかと思う輩もいたのだが、酒瓶を片手に暴れそうになった兵士は、アスランが注意する前に、凍えそうな視線を食らって大人しくなった。
 アスランとは皇帝を挟んだ反対側、正座している青い軍服は、片手に一升瓶片手にコップを持ち、手酌を重ねながら、顔色ひとつ変えずに淡々と花見を続けていた。
「ガイ、ツマミがたらないようですよ。」
 くいと煽ると、側にいた貴族にそう告げる。第三師団長の彼がどうして此処にいるのかアスランは知らない。
「待ってくれよ旦那、今料理が届いたところだから。」
 苦労性の(元)使用人は器用に人々の間を縫いながら、厨房から届けられた色とりどりの料理を配っていく。最後に、ジェイドに皿を渡し、ピオニーの前に膝を折った。
「何だ、何だ。飲んでるか、ガイラルディア。」
 頬に微かな色を添えて、ピオニーは両腕にガイを抱きこんだ。
「へ、陛下!」
 ぎゅっと抱きしめて頬ずりをする。
 耳まで赤くなったガイを、冷ややかな視線で眺めていたジェイドが、片手にもった一升瓶をその口に突っ込んだ。声を出す暇も与えず、ぐいと上に向ける。斜めになった瓶は、中身を彼の口の中に流注ぎ込んだ。
「飲んでますよ。」
 ぐっと詰まり、噴出しそうになったガイの口をピオニーは塞ぐ。
「もったいねぇ、飲んじまえって。」
「んーんん!!」
「出したらお仕置きしますよ〜〜。」
「へ、陛下!これでは、息が出来ませんよ!」
 酔っ払いふたりに絡まれたガイに助け船を出すつもりで、留めに入ったアスランに、ふさがれた口は外して貰ったが、喉まで詰め込まれた液体を飲み込む事は出来ず、ガイは手を外された途端にピオニーに向って噴出した。
「お前…きったねぇなぁ。」
 ピオニーはべっとりと手についた酒をぺろり舐めて、酒が滲みた服を気持ち悪そうに指で摘んだ。
「申し訳ありま…。」
 謝罪を口にしたガイの言葉など、聞きもせずピラピラと暫く眺めていたが、腰の飾りに手を掛ける。
 緩めた後は腰との隙間に手を入れて、持ち上げた。
まるで、見せ付けるように、ゆっくりと脱ぎはじめる。喧騒に包まれていた庭が一瞬で静まりかえった。

「ガイ。」
「なんだ。」
「ぐっじょぶです。」
 ジェイド賞賛を親指で表わした。
「音機関を。」
「…俺かよ。」
 口ではそう言いながら、何処からか取り出した写真機を構えた。手際よく作動させていくが、ジェイドは不満気に呟く。
「映像器ではないのですか?」
「すまん。今度から用意しておく。」
 ピオニーの引き締まった腹筋と、形よい臍があらわになった時点で、やっと我に返ったアスランが問う。
「へ、陛下、何を…!」
「気持ち悪いから脱ぐんだよ。」
 何がおかしいのかと、その顔が問う。
止めるのかと周囲が問う。…どうして止めるんだと、己の欲望が問う。
 しかし、ここは忠臣の鏡。アスランは、足元に絡みつく欲望を振り払った。
「いけません。こんなところで…脱がな…。」
「なんだ、お前大胆だなぁ。」
 にやりと笑うと、ピオニーはアスランの首に両腕をまわし、しなだれかかる。
「…脱がしてくれるんだ…。」
 熱い吐息が首筋を撫であげれば、足蹴にしたのは理性だった。
 アスランの手が、ピオニーの服に手を掛けた瞬間、彼の頬を隕石が掠めていく。
「…。」
「…。」
 アスランの頬にたらりと血が滲み、ジェイドの笑みが深みを増す。
 
 桜の花が何故薄紅色なのか?
それは、血を吸っているから。

「師団長を守れ〜〜〜!!」
「うおお!俺の本気を見てみるか!!」
「さあ、逝きますよ!」

 爆音と喧騒に包まれたマルクと庭園の中。

「全く煩い人達ですねぇ。花見は静かに楽しむものですよ。」
 平和だったのは、ひとり外れた場所で飲んでいたディストとその膝枕で、すっかり寝入っているピオニーの二人だけだった。
 
…ってなんだこれ(苦笑)
4/6の絵茶にお邪魔させていだたいた際に、お題を頂いて即効で書かせていただいたものです。神揃いのウハウハでしたので、視姦目的だったんですが・苦笑
私は置き逃げさせてもらったんですが、その後にこんな素敵な絵が生まれていたなんて〜〜。神様ありがとう!!
素敵過ぎます!うわわわわわ。


〜fin



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