浪漫など語る暇は無く 綺麗な貌だと思っていたが、目を閉じると信じられないほど睫毛が長い。 『ひょっとすると、鉛筆の1本でも乗っかるかもしれん。』 無駄な事を思いつき、ピオニーはキョロキョロとそれを探して部屋中に視線を泳がせた。 公務で訪れたホテル。皇帝を泊めているだけあって、内装は確かに豪華だ。 過密するぎるほどの予定も一段落つき、落ち着かないという理由で、警護の兵士をやっと追い出したところ。この部屋にいるのは、皇帝と懐刀だけ。 漸く、側面にやたら豪華に絵付されている花瓶にあるドライフラワーの枝を見つけ、手にとってぽきと折ると用向きにぴったりだとほくそ笑む。 そうして、部屋のど真ん中に据えられた長椅子で胸元で手を組み横になっているジェイドの側に引き返した。規則正しい寝息を確認し、よし準備万端と活きを上げゆっくりと枝を彼の顔に向ける。 あ、とと。そう、眼鏡の存在を忘れていた。これは、俺としたことが…。 ピオニーは、枝をテーブルに置いて、眼鏡を外すべく腕を伸ばす。しかし、これは青い手袋に阻まれた。 瞼はまだ閉じられたまま。ゆっくりと口だけが動く。 「子供じゃあ、あるまいし、大人しく出来ませんか?」 「やることなくて、退屈なんだよ。」 ぶうさぎ達もいねぇし…そうひとり語つ。 「だったら、おひとりで遊んで下さい。 私は連日の警護で睡眠不足ですので、貴重な仮眠の時間を邪魔しないで下さい。」 「つまんねぇ奴。」 せっかく、ふたりなんだから構えと漏らした声と共に、ピオニーは長椅子の側に腰を降ろした。側面に背を寄りかからせる。 「…貴方も休息なさったら如何ですか? 本当は眠いんでしょう?」 「俺は繊細だもんで、枕が変わると眠れない性質なんだ。」 「幼い子供が言うような…。仕方ありませんねぇ。」 盛大な溜息に押し出されるように言葉は吐かれ、しかし、ピオニーの顔に期待が浮かぶ。 けれど、ジェイドは身体を傾げて、側面の皇帝に両手を回して抱き込んだ。ピオニーの顔を胸元に置き、幼子にするように片手でぽんぽんと叩く。 「はいはい、こうして差し上げますから寝ましょうね?」 ジェイドの仕草にピオニーは頬を染め、あからさまな抗議の視線を向けた。 「馬鹿! お前の貌がこんなに側にあったら、眠れねぇだろううが。」 「……これは随分と可愛い事を。」 ジェイドはクスリと笑うと、ピオニーの額に音をたてて、口付けを落とす。 「なっ!?」 「すみません。私、その気になりました。」 不意打ちを食らい、一気にピオニーの頬は蒸気した。そして、その意味に気付くや否や、ジェイドの腕を振り解き立ち上がる。 「おや?どうしました。」 にやりと笑う貌が極悪だ。 「畜生、覚えてやがれ〜〜〜!!」 ぐと唇を噛み締めると、どんな小悪党が吐くのかという捨て台詞を残して、寝室へ逃げ込む。 ジェイドは起きあがると、欠伸をひとつ。長い脚がゆらゆらと揺れた。顔に妖艶な笑みを浮かべ、ゆっくりと絨毯を踏みしめる。 「其処には逃げ道はありませんよ、陛下。」 確かに、扉はひとつだけ。 寝てるジェイドにちょっかいを出すピオニー(ジェピ)のリクでした。 そんな事をすれば、ロクデモナイ結果しか残さないとわからないもんでしょうか? うちの陛下も鶏頭ですね。 〜fin
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