ピオナタ 真っ直ぐな視線。 すっと伸ばした手と、雰囲気はぴんと張りつめる。 夜も明けきらぬ空には、まだ星が煌めいていた。 その輝きを思わせる瞳が細められ、放たれた指は微かな音を伴って的に吸い込まれていく。 一本、二本とそれは増えても、継続された緊張感は減ることは無く、額には次々と玉ような汗が吹き出してくる。 しかし、矢が風を切る度に舞う金髪は、ふんわりと柔らかだ。 そう、だな。綺麗だ。 口の中で噛み締めて、声には出さずに唇を緩めた。異国の姫君に見つかる前にそれはこっそりと手の中に隠す。 木を打ち抜く音がふいに止まった。 「黙ってご覧になっていらっしゃるのは、失礼ではありませんの?」 気付くとナタリアが腕組をしながら、上目使いでこちらを眺めていた。真摯な瞳は真っ直ぐにピオニーを見つめていた。 「集中してるようだったんで、邪魔しちゃ悪いと思ってな。」 ピオニーが、腕の中でじたばたと暴れるぶうさぎを地に降ろすと、幾重にも葉の積もった地面を鼻で堀り返しながら、綱の届く範囲で歩き廻った。 顔を綻ばせてそれを見遣り、ピオニーは視線をナタリアに移す。 「覗き見するつもりはなかったんだ。此処は、こいつらの散歩コースでな。」 「まぁ、そうでしたの。でも、こんなに朝早くですか?」 「朝早くじゃないと、俺もこいつらも的になっちまうだろう?」 口元に拳を当ててくくっと笑うと、少女は頬を赤らめた。 「そ、そうですわね。失言でしたわ。」 焦る様子が年相応に可愛らしかった。それでいて、真っ直ぐに見つめ返してくる凛とした気品は決して損なわれる事は無い。 それが彼女の強さであり、背負うものの大きさをピオニーに感じさせる。 己自身にも憶えがある様々な重みは、時に少女を潰しそうなほどにのし掛かってくるのだろう。それでいて、彼女は『責務』を投げ出したいとは思わないはずだ。こうして、鍛錬する事を欠片も疎ましいと感じていないように。 「きゃっ。」 他の場所へ行きたいらしく、先程からぶうさぎ達はピオニーの足元にまとわりつき、鼻を押しつけアピールしていたが、側にいたナタリアもその対象に含まれたらしい。湿った鼻が急に足に押しつけられ、ナタリアは驚いてピオニーにしがみつく。 「な、何ですの?」 「こいつらのお強請りだ。すまんな、お前達。」 「え?」 ピオニーは、手にした手綱を一本ナタリアに手渡した。そうして、空いた手でナタリアの手を引く。 「さ、行こうか。」 「陛下…あの。」 「鍛錬も必要だが疲れた身体を休めてやることも大事だ。眠れないのなら、暫く散歩でもして気を静めるといい。」 にこりと微笑まれて、ナタリアは無下に手を振り払う事も出来ずに歩き出す。 「これは、セクハラですわよ、陛下。」 ピオニーは蒼穹の瞳を細め、ははと笑った。 ABYSSに惹かれた切欠はナタリアでした。 レイアの中で風ちゃんというキャラで、彼女がナタリアに被るんです。金髪で、ふんわり巻き毛で、弓使い(のちに剣使いになっちゃいます)。お嬢様口調までそっくり。風ちゃん出るんだ〜〜〜と、楽しみにしてました。 レイアで風ちゃんの恋人がたくみ声の方だったんで、陛下も気にはなってたんですけどね。 ああ、最初はあれなのに、どうしてこんなに陛下好きになっちゃたのかなぁ。不思議です。たくみ声だけのせいではないですよね。 〜fin
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