Halloween


チャレンジ(1年生)のガイピオ。


ハロウィーン (★【解説】 万聖節 (All Saints' Day) の前夜祭; 10 月 31 日の夜; 英国ではあまり行なわれないが米国では盛んで, 魔女 (witch) などの仮装や, カボチャ (pumpkin) の中身をくりぬき jack-o'-lantern を作ったり, “Trick or treat!" (お菓子をくれないといたずらするぞ)と言って子供たちは近所の家からお菓子をもらう).
&All Hallow's Even (諸聖人の祝日の前夜)の短縮語'


 旦那に見せて貰った古文書にそんな事が記してあった。
今でも田舎の方ではなごりが残っているらしいとも聞いたが、実際に見たことは無い。
 けれど、それを自分に見せた旦那と同じ様に、俺はこう考える。

『なんて、あの人が好きそうな行事なんだろうと。』

 だから、仕事を終えて戻った屋敷の居間に、それがあったからと言って、ガイはさして驚きもしなかった。両手で抱えられるほどの大きな南瓜で作られたjack-o'-lantern。
 部屋のど真ん中に鎮座し、にぱりと口を広げて炎を揺らめかせている。溶けている蝋燭の量から考えて、帰宅時間よりも、数時間前からお待ち頂いたようだ。
 ソファに寝そべって、規則正しい寝息を洩らす金髪の魔女も同様。
 どうして入り込んだのか…とか、どうやって宮殿を抜け出したのかとか、常識では考えられない事柄は、取り敢えず頭から放りだした。
「陛下。起きてください。」
 肩に手を掛け揺する。目覚めない相手に、顔を近付けた。
深夜零時を待つばかりの時刻。そう、まだ間に合う時間だ。手触りの良い金髪を耳に掛け、掠めるように囁く。
「Trick or treat…。」
 眠る魔女は、くすぐったそうに首を竦めて、金の睫毛を引き上げた。
「ん…ガ…イラルディア…。」
 完全に戻らない意識で、唇から出される自分の名前は舌足らず。
 甘さを孕んで幼く、媚びるような響きがある。普段、余裕ばかりを感じる相手のせいか、そんな事で心臓は動きを早める。
 ソファに置いた腕に掛かる重みは、皇帝が寄りかかってきているせいだ。
「ええと、何してらっしゃるんですか?」
 問い掛けには、思った通りの答え。Halloween。大きな欠伸を噛み殺して、伸びをした。蒼穹を細めて、綺麗に笑う。
 「帰れなんて言うなよ。ジェイドには、(遊び相手は用意しといてやる)からって追い出されたんだからな。」
 ピオニーの一言に、ガイの中に膨れ上がっていた甘酸っぱい感情は、急速に冷却された。


『もういいですよ、ガイ。どうせ、今夜中には終わりませんので、後は私が引き受けましょう。』
 そんなまさかとガイは思う。何かの嫌がらせだろうか。ジェイドが人を気遣うだなんて。
 返答に困り、立ち竦んでいるガイにジェイドは手に持った書類を机の上に数回落として、軽い音を立て、紙束を整える。まるで、追い立てるように。
 本当に帰っていいらしい。珍しい事があるものだと礼を告げ、扉に向かったガイに、満面笑顔でジェイドが声を掛けた。
『ああ、それと、明日には返してくださいね。あれでも、(私の大事なもの)ですから。』

「どうした? ガイラルディア?」
 不思議そうに見つめ返す相手。
先程はわからなかった意図が、ありありと読める。
 
策略に引くか、御馳走を頂くか。

さて、Trick or treat?



〜fin



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