よくあるお話しのオリジナルさまとぴおさま Good-bye" to the world ある日、僕は唐突に気がついた。 『自分は死ぬ。』 ダアト教団に、ひいてはユリアに選ばれた自分が。 何故? 誰よりも優れているはずの自分が、どうでもいいような能力しか持ち合わせていない教団員の誰よりも先にいなくなる。 どうして? それは、この世界に必要のない人間だと言われている気がした。では、守らなければならないと言われてる世界って何なのだ? 自分を必要としない世界を、何故自分が必要としなければならない。 したり顔で綺麗事を言う奴らほど鬱陶しかった。 だから、自分の味わう恐怖の幾らかを他人に分け与えていこうと決めたのだ。それは、魅惑的で、行動に移すとこれほど効率的なものは無いと知った。 人は己の死を突き付けられると、未来の世界など思い浮かばない。未来に他人が幸せになる事よりも、今自分が幸せに成ることが大事だと信じる相手は、笑いが出る程に操りやすい。 導師といえども、こんな子供に逆らう事すら出来ないのだ。前なら、自分らの決めた規律だの常識だのを偉そうに押しつけてくる奴らなのに。 だから、目の前の脳天気な皇太子にも与えて、曇ない笑顔を濁してしまえば良いと思ったのだ。 たまたま、ダアトに書状を任されたマルクトの皇太子。澄みきった青空のような印象を受ける男。子供みたいに笑う顔も、気に入らない。 生きていくのが楽しくて仕方がないって風なとこも、自信満々な態度も酌に障る。 よくよく見れば、第七音素の素養があって、素知らぬ振りをして譜石に触れさせ『自分の秘預言』を垣間見せてやった。 こっちを非難して、国際問題云々と神経質な事を言いだしても、事故だったで澄ましてやろうと思っていたのに、相手は、自分の手を暫く眺めていた後に(な〜んだ)と呟く。 そして笑みを浮かべる。自嘲でもなく悲嘆にくれる様子でもない。 こんな態度、たった一人しか見たことがない。そう、ホドの生き残り、あいつだ。あの男も、自分の秘預言に微笑んだ。 ああ、もう、はっきり言って、面白くない。 「自分の最後だ。怖くないの?」 イオンの呼び掛けに、ピオニーは一瞬驚いた顔して、先程と変わらぬ笑顔を彼に向けた。 「生まれてきたものは、必ず死んでいくものだ。 母が人は『死』を知る事によってはじめて『生』を知ると言っていた…だったら俺は、生きる事を知ったのかもしれないな。」 「……それ、なんだよ!?」 イオンは人を馬鹿にしたような仕草の全てを放棄し、叫んだ。ピオニーに喰ってかかる。それは、感情を剥き出しにした歳相応の幼子の姿だった。 「なんでだよ!? 自分の最後やオールドランドの最後を聞かせてやれば、皆脅えた顔で立ち去っていくんだぞ!今の今まで、偉そうにしてた奴だって、死ぬのなんか怖くないって言ってた奴だって皆だ!!」 だだっ子が泣き叫ぶ。そんな仕草で、イオンはピオニーの服を掴み揺さぶる。 「あんただってそうだろ!?怖いだろ?苦しいだろ!?自分じゃどうにも出来ないんだぞ…あんただっ…。」 大きな手がイオンを抱き締める。 「怖いさ…死の国へ行って帰って来た奴はいない。」 「なら…。」 「それでも、いつかは必ず行かなきゃいけないんだ。でも、お前はもっと生きたいよな。」 イオンは、はっと眼を見開く。自分が手を貸した事で、自分自身の預言をも、皇太子は垣間見てしまったのだと気が付いた。手をはねのけ、睨み上げる。普段通りの、強い視線がイオンに戻っていた。 「同情なん…て…。」 「俺も怖い、死ぬのはな。」 皆、同じだ。 そう告げてくれる声は、優しく穏やかで、イオンは不思議なものを見るように男を見上げる。 「それでも、俺はこの世界が好きだし、俺がいなくなっても皆が幸せで暮らして欲しいと思うぞ?」 にこりと笑う男の顔は、やはり太陽のようで、イオンは虚を諦めて、微苦笑を唇に乗せた。そして、きっぱりと言い放つ。 「僕はこの世界は嫌いです。」 この後に、貴方は皇帝にならないで下さいとか、オリジナルイオンさまに言われて、爆笑するピオニーとか。「なりたくても無理だろ〜」と笑い飛ばしちゃうのも良いかな。 イオンさまもオリジナルイオンさまもあの歳で死んじゃうと知ってるのは可哀相だと正直思います。だから、オリイオさまが性格悪くても仕方ないよ。うん。 〜fin
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