喧嘩する二人 ピオニーが殿下の頃。 「殿下が拗ねていると、兵士が困ってましたよ。」 「…黙れ…。」 「そうしていれば殿下の気持ちは収まりますか?それとも、お慰めが必要ですか?」 人差し指でついと顎を持ち上げられ、ピオニーはジェイドの手を弾いた。綺麗な柳眉は怒りを刻み、夕陽影を孕んで輝く金糸から垣間見える。 「おや、手加減なしですね。」 ジェイドは赤く腫れた手の甲を眺め、クスリと嗤う。 「お前は…何を知ってる…。」 山間にある小さな街をひとつ焼き払った。それは、皇帝反逆の意志ありと判断された結果。生き残った者達がいずれ帝国に牙を剥くやもしれぬという懸念で、女子供は容赦無かった。 ジェイドもまたその命に従い、戦場とも呼べないそこへ赴いている。 「殿下のお言葉全てが間違っていたわけではないという事なら存じております。」 「どういう事だ。」 「実際に街には不穏分子は紛れ込んでいたということです。 軍部が把握していた情報では、先だって陛下の命を狙った輩が街に逃げ込んだ事は調査済み。しかし、住民の結束が固くその足取りが掴めず、マルクト軍部の不審を煽った。 ただ、それを持って、その街全ての住民を抹消するにはリスクがありすぎます。流石の皇帝陛下も、街ひとつとなると安易に返事は出来かねたようですよ。 そこで殿下の出番ですね。」 「まさか…。」 「そうです。殿下は軍情報部に利用されたんですよ。皇帝陛下が貴方の言葉なら受け入れるだろうと考えた上で、会議の場で話題を振ったはずです。 まんまと乗せられた貴方は、軍部の望む返答をしてしまった。そういう噂もある…と。」 「そこまでわかっていながら…お前は…!!」 怒りにまかせて掴んだ胸ぐらを、それ以上どうすることも出来ずにピオニーは顔を伏せた。それを見つめるジェイドに、笑みは浮かばない。 「残念ながら、私は軍の一員で、ただの駒。殺せと命じられれば、従うしかありません。所詮は道具、使い手の意志次第「ジェイド!!」」 もういいと続けて顔を上げる。睨み付ける蒼穹は潤んでいた。 「…俺の不用意な言葉が…悲劇を招く事はよくわかった…。 今更何を言ったところで、取り返しがつかないことも思い知った…。俺が未熟だった…そうだな、ジェイド…。」 「仰せの通りです。賢いですね。」 にこりと笑顔を見せたジェイドの顔を、ぐっと引き寄せてピオニーは口を開く。 「けどな…今度、同じ事を俺に知らせずに処理しやがったら、ただじゃおかねぇ。 それが例え俺を庇う為でも、だ!」 「これは、怖いですねぇ〜。」 表情ひとつ変えないジェイドに脅しなど意味は無い。そうわかっていながらも、腹の虫が治まらない。 「いつかお前が死んでもやりたがらないような任務を命じてやるから憶えておけ。ジェイド。」 それが、和平の使者とか…(笑 〜fin
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