睦言 「貴方が…好きですよ。」 シーツに縋るように、俯せになっているピオニーの耳元で吐息が言葉になる。まだ足りないのかと呆れの色を瞳に浮かべて、視線を斜めに動かした。 水晶が眼球を覆っているような潤みを孕んだ紅玉が見返し、それだけで、生唾を飲み込むほどの疼きが身体に生まれる。 「ピオニー…。」 意図はないだろう背筋をなでる亜麻色の髪が、刺激に敏感な身体に震えを走らせた。組み敷いている相手に負担を掛けないよう、両手で支えていた体重を片手へと移し、細く繊細な指が、そして掌が腰から背中に動く。 ゆっくりと、しかし決して肌からは離れず、抑えつけるほどの力は入らない。 「好きです…。」 まるで譫言のように、何度も呟く相手をもう直視していられなくて、ひょっとするとジェイドの目よりも赤くなっているのではないかと思う頬を再びシーツの波に埋めた。目の前を覆う金の糸に、亜麻色が混じり柔らかで甘い色合いに変わる。重みが温もりが心地良い。触れる部分のみ感じていたい。 しかし、瞼を閉じたピオニーの様子を、ジェイドは拒絶と感じたようだった。名残惜しそうな掌を置いて、密着していた上体を起こす。 心地良さを失い、ピオニーは大きく溜息を吐いた。 「ピオニー。貴方がどう思っていても、私は貴方が好きですよ…。」 不機嫌になったピオニーを宥めるつもりの言葉だったが、それまで腕の中で大人しくしていた青年は、素早く仰向けになると肘と腹筋で上体を持ち上げ、ジェイドの貌を睨みつけた。 己だけを視界に写す蒼穹に、ジェイドは目を細める。 「お前なぁ…恋愛ってのは…。」 自分が言い出そうとしたことに一瞬戸惑い、ピオニーは口をへにして言葉を飲み込んだ。 「恋愛…は何です?」 緋色の瞳が嗤っている、有り得ない程に柔らかく優しく。 「……お互いが、お互いを欲しくなきゃ…始まらないだろ…。」 大きく見開かれる赤。少しだけ、してやったりの蒼。不機嫌な貌はそのままにピオニーはジェイドの唇に己のものを軽く重ねた。 「…俺もお前が好きだ。」 〜fin
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