夕顔 「随分と遅かったのですね。」 ジェイドに声を掛けられて、アスランは困ったような笑顔を返す。彼の様子でジェイドは緩く唇を上げた。 「また、皇帝に我が儘を言われましたか?」 アスランは笑みを浮かべたまま。それが肯定の返答。 優しげな容姿に似ず、アスランは硬派で礼を重んじる古いタイプの人間。すべからず嫌味で囲い相手を責めるジェイドに対し、ばっさりと竹を割った意見を返す人物だった。 しかし、そんな彼が唯一ばっさり切れない人間がいる。それがマルクト皇帝陛下だ。尊ぶべき主君であるという前提もあるのだが、アスランは、ピオニーの人となりに弱いらしい。自分も幼馴染みとして、ピオニーには甘い部分があると自覚出来るので、そこは理解出来る。 「先だって逆賊を処分したばかりですので、外に出るのは危険ですと進言したのですが、ならお前がつき合えと…。」 「外苑の散歩ですか…御苦労な事です。…おや、それは?」 アスランの手には白色大形の香気あるアサガオに似た花。ジェイドの視線を辿りそれとアスランもそれと気付く。 「陛下が見ていらしたので、お好きなのですかとお尋ねしましたら、手折って下さいました。」 「そうですか。」 美しい花を見つめて、アスランはふっと息を洩らした。 「…処分した者達の中には、幼い子供もいたそうです。こんな些細な事ですが、陛下のお心が静まればよろしいのですが。」 「そうですね。」 では、と職務に戻るアスランの背中を見送って、ジェイドは苦く笑った。今夜辺りご機嫌伺いに参った方がいいのかもしれないと思い立つ。 ピオニーがどんな表情で花を見ていたのか、ジェイドは聞くまでもない。彼が見つめていた花の指し示す言葉を知るのならば。 「成程…罪深い人ですか…。」 〜fin
content/ |