ネフリー


「ごめんなさい。お受け出来ないわ。」
 そう言った後、貴方は寂しそうに笑った。
それでも、その蒼い瞳に曇がなくて、ああやっぱりと思ったの。

 わかっていたけれど…そんな言葉を口にして空を見上げるから、私もつられて上を向いた。
 降り続く雪。雲の切れ間から覗く光が、まるで貴方みたいだと思ったのよ。
垣間見える蒼い空と降り注ぐ金の光。
 あんな風に貴方はこの国を照らしていくのね。それだけは、理解出来た。
 その時に隣にいて、貴方を助けてあげられるのは、きっと私では無いのだろうと、幼い頃から感じていた事は言わなかったかしら。
 
 正直言うと好きだったわ。
綺麗な髪も、蒼い瞳も、可愛いいって思える笑顔も、屈託のない態度も。
そして、優しさも。みんな好き。
ああでも、整理整頓は、もうちょっと頑張ってもらった方がいいわよね。

 それから、ちょっとだけ貴方の事が嫌い。
妹の私でさえ、近寄りがたかった兄さんの隣にあっという間に並んでしまった。
 無表情で、無愛想な兄が貴方に背中を預ける姿は、羨望に近いものがあったのよ。サフィールが、貴方に反発する理由が私にはわかる気がしたわ。

だから、あの時に告げなかった。
「女は愛情で男は友情…そんな風に分けなくてもいいのよ…と。」
大切で、支えたい相手。それが一番大事なの…と。


「どうしたんだ?」
 玄関で立ち止まっていた私に、パートナーが微笑んだ。
「雪が、降っているわ…って思って。」
「この国では、珍しくもないだろう?」
 クスクスッと笑う金の髪と蒼い瞳の人。
「ええ、そうね。本当だわ。」
 微笑み返すと、頬に口付けをくれた。サラリと目の前を金色が覆う。この国全てを照らすには、小さすぎる光なのかもしれないけれど、私にとってはこれで充分ね。

 この国を照らす、大きな輝きの側にはそれに相応しい人が寄り添っているはずだから。私は此処で、四人の大切な思い出を守っていくと決めたから。

「じゃあ、行ってくるわ。」

 歩き出した私の耳に、扉が閉じる音がした。


〜fin



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