大事なものは


 宿の部屋。
 夕食までの僅かな時間、ジェイドは古文書を読んでいた。その横でガイとルークはナタリアとアッシュの話をしている。
 聞くとはなしに聞いていると、いつの間にやらその議題が『旅をしている時に、好きな、もしくは大切な相手と自分がどうしたいのか』に変わっていた。
 ルークは腕組をしてうんうん唸りながら答えを絞り出す。
「俺は、やっぱり一緒にいたいと思う。離れると寂しいし…。好きならずっと一緒にいたいって気がする。」
「そうだな、俺も側で守っててやりたいな。そいつの背中を見守ってられたら安心するし、危ない時には助けてやれるしな。。」
 二人の会話を聞きながら、ジェイドは『いや〜若いっていいですね。』と呟いた。
「じゃあ、ジェイドならどうするんだよ!?」
 黙ってこちらの会話を聞いててずるいぞとルークはジェイドにも話を振ると、彼は本から目を放さずに答えを返す。
「そうですね。私なら大切な者を連れてなんて歩きませんよ。」
 ルークが理由を問いかけると、ジェイドは意味深な笑みを浮かべた。
「共にあっても、守れない事など多々ありますし、自らの身も危険な時もありますからね。大切でしたら必ずそれを守れる場所に上等の鳥籠と居心地の良い寝床を用意して、美味しい餌を与えておきますよ。」
 黙って最後まで聞いていたが、ルークはムッとしてジェイドに食ってかかる。
「あのな、ペットの話をしてるんじゃないっつうの!」
「おや、私もそのつもりはありませんけどね。」
 ジェイドに馬鹿にされたとでも思ったのか、いっそう不機嫌な表情になったルークだったが、『揶揄するもの』がガイには思い当たった。
 思わず苦笑いを浮かべる。
「そう言ったらさ、旦那は結構独占欲が強いけど、自慢したがりだよな。」
 その台詞にジェイドはにっこりと笑う。
「当然です。他人の評価など気にはしませんが、万人が見て評価を劣する相手を選ぶつもりはありませんし、自分の審議眼には自信があります。しかし、見られる事で誰かに盗られるような愚かな行為もしないつもりです。」
 
 万人の目にその姿は写し出されるけれども、決してふれることのできない場所。そして、その相手。
 ガイの脳裏に浮かぶのは、たった一人の人物しかいない。

「なんて言うか、偶然でも嗜好に合う場所で良かったな、旦那。」
「…偶然、ですか…。」
 クスリと笑って、眼鏡を指で押し上げる。え…とガイの顔が強ばる。
「まあ、そういう事にしておきましょう。付け加えておくと、ずっと一緒にいるより、籠の中に入れて時々餌を与えた方がよくなつきます。そうでしょ、ガイ?」
 ひきつった笑顔を浮かべたまま固まってしまったガイの横でルークが首を捻った。

「なぁ、ガイ。ジェイドは一体何を言ってるんだ?」

 しかし、ガイには到底答えることは出来なかった。


〜fin



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