Between the nocte maneques 「実際、よく出来てるなぁこれ。」 ピオニーは黒く染まった自分の髪を摘んで、光に透かしてみる。黒々とした髪に変化が見られず、感心したように瞬きをした。 「譜術で、光の屈折率を変化させてあるんです。染めてある訳ではないので、ぼろが出る確率は低いですよ。」 そう告げてから、溜息をひとつ間に挟みジェイドは話しを続けた。 「貴方といると本当に退屈しませんね。」 その言葉にピオニーは笑い出す。ジェイドは馬鹿笑いに顔を顰めた。 森はその入口付近こそ普通の森の体裁を保っていたが、こうして中に分け入ると、本来枯葉で覆われているはずの地面は何かドロリとした液体が覆い、その上に獲物を引きずって歩いたと思われる跡が幾つも残っていた。太陽が顔を出し始めた時間帯にも係わらず、森の奥は闇に包まれている。木漏れ日すら無いのは完全に異常だ。 サンプルを摂取しながらジェイドは、目の前を歩いていく黒髪に視線を移した。 森も、髪もその中に秘密を内包しているという点は一致していた。森は恐怖を、黒髪は輝きをその中に秘めている。 「本気で任務をお受けになるとは、ゼーゼマン卿の心情を察すると涙を禁じ得ないですよ。」 「泣け泣け、『死霊使い』の泣き顔なんて、滅多にお目にかかれないからな。何なら証拠写真でもとっとくか?」 意に介する事もなく、ピオニーはケラケラと笑う。譜業によって生み出され微かな光が、漆黒から垣間見える蒼天の光を反射した。強い光は、彼が確かに『ピオニー』であることを証明してくれる。 本来なら、陸上装甲艦にその身を置いているはずの人物。 「だいたい、下級兵士が命に逆らってどうするよ。それこそ、疑われるぞ。」 「ま、そうなのですが。ゼーゼマン卿が肝を冷やしていらっしゃいましたからね。」 「そりゃあ、手間を掛けて悪いなジェイド坊や。」 歯に衣を着せぬ軽快な会話が、ふっと途切れる。獣の咆哮ひとつ物音ひとつしない森で、何かが動く気配を感じ、二人の顔に不敵な笑みが浮かぶ。 「家畜を食べるだけではあきたらなくなったご様子ですね。」 「俺の可愛いぶうさぎを、畜生。」 「貴方のではなく、村で飼われていた家畜です。」溜息を付いて、ジェイドは再度眼鏡を押し上げた。「その、脳天気な頭は一体何をお考えなのやら。」 「俺のハートを奪いたければ、無駄に回転の速い頭で考えて見ろ。」 指先を胸元に押し当てて笑う相手に、ジェイドは溜息しか出てこない。 「やれやれ。偵察は終わりです。…戻りましょう。」 〜To Be Continued?
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