melody is soft,lullaby is gentle 黒髪陛下が出来るまで。(笑) こっちが先だろ?と今頃気が付きました。 ザクリ。 そんな軽い音だった。金の粉が、光に照らされて床に落ち、その束は、手に残される。 頭の後ろに回された手。片方は結い上げられた髪を掴んでいた。もう片方の手は、胸元に忍ばせる短剣を持っている。上に、向けられた刃先を軽く押しあてたかと思うと一息に断った。 気配を探るように閉じられていた瞼が開くと、蒼。ゆっくりと引き上げられた唇と共に、『それ』は差し出された。 「これで、いいか?」 その場にいた人物で、咄嗟に反応したものはいなかった。 「大変結構ですね。」 ジェイドは恭しく頭を下げると、両手を差し出し、今刈り取られたばかりの美しい金糸を受け取った。 melody is soft,lullaby is gentle 青年の腰まで流れる金色の糸は、優美なドレスこそ相応しくも感じた。 一筋の乱れもなく結い上げられた絹達。『構う暇もなく放っておいたら伸びていた』などという代物ではなく、時間と手間を掛けた高級感に溢れていた。 ああ、それは勿論ですね。ジェイドはそう思い笑う。長く伸びた自分の髪は前記の通りだが、それと同じはずがない、何故ならば彼はこの国の皇太子なのだから。 けれど、彼が纏っているのはドレスではなく軍服。 マルクト軍の、目に痛いほど青い服を着て自分の前に立つ男に、ジェイドは深々と一礼をした。面白いものでも見るように、ピオニーは目を細める。 「少将ご就任おめでとうございます、殿下。」 「めでたくないのを知っているくせに、嫌味な奴だ。」 顔を上げると、にやりと口角を上げ蒼穹の眼差しを真っ直ぐに向けてくるのが見えた。 「一介の少尉ごときには、なんの事やら…。」 不遜な言い草に、ピオニーは声を上げて笑う。 「お前こそ、ローテルロー橋の戦いでキムラスカのスティール将軍を打ち破り、ひとり帰還した武勇伝はたいしたもの…だろ?」 「気が付いたらひとりになっていただけですよ。必ず生きて帰って来い…誰かさんにそう言われましたからね。」 一瞬きょとんとした顔をしたピオニーは、所作なげに頭に手をやると苦笑いを浮かべた。その様子で、ジェイドには彼が何を思っていたのかを知る。 「冗談だと思っていましたね、殿下。」 「すまん。お前特有のユーモアだと理解していた。考えを改めた方がいいか?」 「是非。」 二年前の月夜。血に塗れた部屋でピオニーの手を取り忠誠を誓った。 『貴方に、永遠の忠誠を捧げたいと存じます。』そう言い出したジェイドに、 『必ず生きて帰って来い。約束出来るなら受けてやる。』とピオニーは返した。 幼馴染として過ごしてきた二人にとっては、軽いおふざけと感じられてもおかしくはない状況ではあったのだが…。 「酷いですね〜。私がこんなに努力して出世までしたと言うのに〜。」 「おいおい、それも俺の為かよ。」 にっこり笑って『はい』と答えると、なんとも言えない微妙な顔つきになり、最後は片手で目を覆った。 「なんだか、ユリアに祈りたい気分になったよ。」 「あれは出来心だったんですか、今更捨てるなんて〜酷いですよ殿下〜。」 「うわっ、キモッ。」 軽快に応じるピオニーと会話を交わしつつ、ジェイドの頭は次に展開される時事に対応するべく情報を整理する。 ケテルブルグに軟禁されていたピオニーがグランコクマへ連れ戻されたのは、数ヶ月前。 成人の儀を終え、正式に帝位継承権を得たからというのが表向きの理由で、軍への参加もその一環。その事実に間違いは無いはずだ。 その背景には、兄殿下が犇めく帝位継承者の中から次期皇帝に最短と言われる役職を議会より得た事が推察される。これを境に、ピオニーを筆頭に帝位継承権を持つ人物の扱いが抹消から利用へと変更されていった。 彼らを家臣とする事で自分が持つ権力の誇示と、万が一反逆の意向が発覚した場合の処分のしやすさの一挙両得を狙ったというところだろう。あまつさえ、戦争で死んでくれれば、『幸運』、それに見合う機会も格段と増えるというものだ。 帝妃側にのみ都合のいいこれら一連の事柄が、易々と通ったのは、今マルクトはホドを巡ってキムラスカと緊張状態になっているという現実があった。 皇帝の目は、それにともなって不満が高まる国内への対処に向けられている。ひょっとすると、その先導すら…考えられない事では無い。 嗚呼しかし、残念です。ジェイドはひとり語つ。 女は子宮で物を考えると言いますね。此処まで整った状況でさえ、そうすれば自分の立場に不利がかかるとわかると知っていながら、嫉妬の焔は消せはしないの。 端正なピオニーの横顔に、ジェイドは見たこともない彼の『帝の寵愛を一身に受けていた女性』の面影をのぞき見る。 「…とはいえ、貴方の部下として配属されたからには、出世の道は閉ざされたも同前ですね。」 そういうと、ジェイドは嗤った。 〜To Be Continued?
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