素直な言葉で (ED後捏造です。) グランコクマの色は、やはり青。バチカルのイメージは赤が相応しい。 ピオニーはぼんやりとそんな事を考えながら、綺麗に整備された溝に向かって頭を垂れている青年の背中をさすってやる。 譜業の発達したこの都市は、深夜であるこの時間でさえ煌々とした灯りで照らされている。けれど、ピオニーを取り巻くのは薄い闇。 あまりの明るさを居心地は悪く感じて、避けるように建物の影にしゃがみ込んだのだ。理由は連れである酔っぱらいが生ライブをしたせいだった。 結構な時間が経過した気がするが、ルークの酔いはまだ醒めてはいない。もっとも、胃の中にあったもの全てを吐き出してしまったようで、えづいても何も出てはこなかった。 苦しそうに揺れる赤い髪が、見慣れた赤に劣化している気がしてピオニーは苦笑した。 そんな事はありはしないと首を横に振る。彼は第七音素の加護を受け戻って来たルークなのだ。身体の音素が剥離の危機を孕んでいたルークとは違う。 「…ったく、こんなに弱いなら、無理につき合わなくても良かったんだぞ?」 苦笑混じりのピオニーの言葉にピクリと肩を震わせた。が、顔を上げる力はないらしくただ荒い息を吐いて俯いたまま。 ピオニーは、垂れていた顔を覗き込みながら、もう一度声を掛けた。 「何処かで横になった方がいいんじゃないのか? ルーク」 「す、すみませ、陛下…。」 涙目で、ゼイゼイと喉の奥で呼吸をするルークにピオニーは苦笑いを返す。 「気にするな。酒も修行だ、そのうちに幾ら飲んでもケロッとしていられるようになるさ。」 ハハハと笑う皇帝に、ルークも笑い顔を作る。 本来、此処まで弱い訳ではない。屋敷に軟禁されていた時に、ガイと酒盛りをした事など一度や二度でなないのだ。勿論、ガイの酒量に及びもしないし、そんなに量を飲んではいなかったが、たかだかコップ一杯か二杯の酒で、此処まで悪酔いはしたことがない。 『世界へようこそ』 見透かされた様に告げられたピオニーの言葉に、全ての神経が狂わされた。 日溜まりの中で、ひとつになった意識は元々の人格のどれもこちらの世界へ連れてくる事は無かった。 理由はあるのだろうが、現実として今自分は『アッシュ』であり『ルーク』であり、そのふたりのどちらでもない。『ルーク』を名乗っているのは、先に生命反応を失ったのがアッシュであり、最後の戦いに望んだのがルークだったからだ。 記憶はある。何があったのか、どう感じたのかも覚えてはいる。 けれど、全てが窓に映った映像を眺めているような、現実感を伴わない感覚だった。自分は誰でもないのだと、そう告げても、仲間達は自分をそれとして認めてくれるという確信もある。それでも、人々は皆自分の中に彼等を求めているが理解出来る以上、大切だと思う者達の為にそうでありたいと願ったのだ。 「ジェイドだって、最初に深酒をしたときは『死人』みたいな顔をしてたぜ。そのうち、幾ら飲んでも顔色ひとつ変えない化け物になっちまったが。」 ケラケラと笑う皇帝に、作るはずだった笑顔が本物に近付く。 苦手だと感じていたのは何処のルークだったのだろう。そんな事を考えていれば、腕を掴まれ持ち上げられた。 〜To Be Continued
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