「うめぇ。」 出されたものは、お行儀よく食べる。あ、食事の前に両手を合わせるのは特筆すべき点だろう。奇妙なとこだけ躾の良さを感じさせる。 「ガイって料理上手いんだなぁ。」 「普通だよ。この程度は。」 「…なぁ。ルークは、ずっと外で出られないのか?」 勢い良く横に振られた頭に、赤毛が揺れる。先端は淡い燈色になったそれは、とても綺麗だ。少しだけ癖のあるふんわりとした髪。 …うん。嫌いじゃない…。 「……なんだ。」 「え?」 思いもよらず、ルークに見とれて彼の言葉を聞き逃す。『何』と聞き返すと、ぷうと頬を膨らませた。一生懸命話し掛けていた分余計に、気に入らなかったらしい。 まるで子供だ。 「もう、言わねぇ。」 タハハと笑い掛けると、プイと顔を逸らした。そんな仕種も酷く可愛らしくて、笑いが止まらなかった。 そんなこんなで、隣の面倒を見る日々が数日続き、毎日隣の部屋へ帰ってくるような状態になっていた。 諸事情あって、幼い頃から一人が多かった暮らしのせいか、ガイにとっても己の帰りを待ってくれる存在は大事なものになっていて、非番の夜にはガイはルークを連れて出歩くようになっていた。そこで感じるのは、やはりルークの非常識さだったのだが…。 「よ、久しぶり。」 ルークと出会う前に預言めいた言葉を口にした男が店を訪れたのはその位の時期で。相変わらず『ブラッディー・マリー』を口にして食えない笑みを浮かべた。 当たり障りのない世間話をした後で、彼は初めてピオニーと名乗った。 「俺はガイと云います。プレートに書いてありますけどね。」 「ああ、知ってた。」 クツリと笑う男に、他に何を知っているんですか?と口をついて出そうになる。留めたのは、ピオニーがふいに視線を逸らしたせい。 背広のポケットに手を突っ込むと、細かく振動している小さな機械を取り出した。 機械いっぱいにある液晶に何かが写っている。目を走らせて、またしまい込む。 何処かで見覚えがあるのだけれど思い出せず、ガイはそれを凝視していた。 「どうした?」 不思議そうに見つめるガイの顔を覗き込むようにして、ピオニーは小首を傾げた。それに気付き、ガイは慌てて、愛想笑いを貼り付ける。 「すみません。それが何だったか…と。」 「ああ、ポケベル。知らないか?俺医者だからさ。」 そうそう、ポケベル。そして、医者? 腕前はともかく、容姿で女性患者が多数集められそうだなどと思いガイは苦笑する。いやいや、医者はやっぱり実力主義でお願いしたい。自分の命を預けるのだから、おかしな奴では困る。 …そう言えば…。 「この間変わった人物に会いました。白衣だったので医療関係者だろうと思うんですが。」 そこで、言葉を止め、右手で顔に丸を二つ作ってみせた。 「こう、眼鏡をかけた色白、髪の長い男で…。」 途端、目の前の男が金色の眉を顰めた。綺麗な弧が歪むのは、興味を惹かれる。 「ひょっとして、知り合いですか?」 そう聞くとふるりと首を横に振った。「知らんな。」 素っ気ない言葉は、肯定の意を感じさせる。関わり合いになりたくない知人なのかもしれない。その感想はガイの心中と一致した。 「俺から不思議な香りがするとか言ってましたけどねえ。何の事だか。」 「…そんな事を言ったのか…。」 ガイの言葉に、ピオニーはキュッと唇を噛み締め、指でそれを覆うと黙り込んだ。 その仕種はまるで追加された預言のように、ガイには感じられた。 〜To Be Continued
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