「ああ、なんてこった…。」 近所のコンビニで買った食料品を手に、ガイはトボトボと家路に戻る。今のうちに寝ておかなければ、仕事に差し支えるというのに、一体俺は何をしているんだろう。 ショボショボになった目を擦っていると、視線が霞む。 だいたい、あのルークって奴が変なんだ。 コンビニは知らない、お金も知らない。そんなまさかと、部屋へ入ってみれば、30インチ位の液晶テレビが部屋の片隅に置いてあり、台所の冷蔵庫にも脱臭剤が鎮座している状態。後は、ダブルのマットレスが引いてあるだけで、本当に何にも無い。赤貧洗うが如しって言葉がピッタリだった。 電気製品もゲームもないんで、聞いてみれば知らないという答え。 世間知らずとかいうレベルの問題じゃなくて、まるで今まで何処かに監禁されていたみたいだ。 幸いな事に、テレビの横に財布が置いてあるのを発見し(これが結構入ってた)、色々買えるぞと教えてやれば、これがお金だったのかと感心される始末だ。 この状況に俺は真面目に『ドッキリ』を疑った。有名人でもない、俺のところにそんなものが来るはずがないんだが、あまりにも常識を逸している。 疑えばキリはない状況だったけれど、あの少年の目が本当に真剣そのもので真っ直ぐに見つめ返してくるもんだから、どうにも逃げられなくなった。断ったらもの凄い悲しそうな顔をするんだろうなって、何となくわかっちまうから、買い物位つき合ってやろうか…なんてつい仏心が…。 そしたら、パッと一瞬面笑顔で、思わず目を奪われそうになって慌てた。可愛いじゃんとか本気で思う。クリクリっと黒目がちの子犬みたいだ。 けど、その次の瞬間には、しゅんとしょぼくれて首を横に振る。 「お日様が出てる間は、外に出られないんだ。俺…。」 なんか、そういう病気をテレビで見た。気の毒に…。 などと思ってしまった俺も単純と言えば単純で。そんな重病患者をひとりで置いておく親もいないだろう。あ〜俺ホントあほかもしれない。 つらつらと考え事をしていたガイは、思い切りよく前方の歩行者に激突した。蹌踉めいた腕を掴まれ、尻餅はつかずに済んだものの、なんてバツの悪い…。 「す、すいません。」 「いいんですよ。目は前についていたと思ったんですけどね。」 下げた頭に振ってきたのは嫌味だった。ムッとしたまま、顔を上げる。 亜麻色の長い髪に赤い目。気付けば、目線は俺よりも上、大した色白美人だが、どうやら男のようで、目を細めて笑っている。躊躇いなく思うのは、係わったら損なタイプだ。つうか、なんでこいつ白衣を着てるんだ!?医者か!? 「おや…。」 相手の笑みが深くなる。ガイの腕を掴んでいた手に力が込められた。 「貴方から、不思議な香りがしますね。」 クスクスッと嗤う。薄気味の悪いほど楽しそうな笑みで…。思わず腕を振り払う。 「…………すいませんでした。」 もう目を合わせないようにして、家とは反対方向を向いた。ストーカーになんざになられても迷惑だ。面倒臭いが、撒いて帰るしかない。 しかし、そいつはこっちの態度など気にも止めずに、コンビニ袋に名刺をねじ込んできた。 「まぁそうムキにならず…困った事があれば連絡してくださいね。」 早足で遠ざかる俺に、両手でバイバイしているのがわかった…気色悪い。自然とガイの足は速さをました。 「やっと…見つけたかもしれませんねぇ。」 楽しげな笑みは、綺麗な弧を形取った。 content/ next |