女になっちゃった陛下・それから


 グランコクマの宮殿。
 金糸を頭の上に結い上げて、その広い湯船に浸かって鼻歌を歌っている美女ひとり。ついこの間『女帝』になったピオニーが、のんびりと入浴を楽しんでいる。
 ほんのりと薔薇色に染まった湯から見える肢体は優美な曲線を描いていて、褐色の肌を滑る水滴も得も言われぬ色香を漂わせている。
 浴室の扉から顔を覗かせたディストが、きぃいいいと声を上げた。片手に何かの計測器を持ち、片手には端末機を手にしていた。
「なかなか出て来ないと思ったら、何のんびり浸かってるんです!。身体測定をすると言っておいたでしょう?」
「え〜気持ちいいのにぃ〜。」
 途端に上がる不満の声を無視して、ディストはピオニーを即した。
彼がピオニーに手渡した薬のせいで、『女』になってしまったピオニーを元に戻す為、ジェイドの下僕となって働く日々。
 六神将としての生活よりも、こちらでの活動が増えているのは気のせいではあるまい。最初は、不審丸出しだった兵士達も無反応になっている。
 けれど、とディストは思う。そもそも、あの薬を作ったのはジェイドで、どうして私が…。

「おおい、上がったぞ。」

 途端、ディストは手にしたボードを取り落とした。一糸纏わぬ美女がその見事な肢体を惜しげもなく晒し、自分の手元を覗き込んでいる。
 髪の毛も金なら、淡い翳りも金色で…って、私は何を見ているんですか!!!!
「ピオニー!!!!恥じらいってもんがないんですが、貴方は!!!」
「お、すまん。」
 とってつけたような謝罪の言葉とともに、彼女の手は下腹部を隠す。釣鐘形の胸が、その動作で艶めかしく揺れた。
 
「ピオニー!!!!!男は隠すところはひとつでも、女は三つあるんですよ!いい加減貴方も馴れなさい!!!!」
 耳まで真っ赤になったディストが側に置いてあるバスタオルを投げつけると、あぁ胸かと呟く。
「なんだよ。小さい頃は一緒に風呂に入った仲じゃないか。」
「あの時は、貴方は男だったでしょ!!!!」
「そう、固い事いうなよ。」
「そういう問題じゃないでしょうが!」
 性転換を果たしても、なんとも呑気な幼馴染みを見ながら、ディストはきいいと声を上げた。眉間の血管が青白い塊になってるのが見え、流石のピオニーもからかいすぎたかと苦笑いを浮かべた。
「まぁまぁ、落ち着いて。お〜い、こいつに水持ってきてやれ。」
 主の声に本来ならメイドが応えるはずだったのだが、そこにディストがいたせいか、警護の兵士が顔を覗かせた。そして、バスタオルを一枚纏っただけのピオニーを見て、鼻血を出して卒倒し、床に後頭部を強打したまま動かなくなる。
「あ〜らら?」
「貴方は自分の姿をもっと自覚しなさい…。」
 随分と魅惑的なんですよ。と言うのも酌にさわり、ディストはそう呟いた。


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