女になっちゃった陛下


「ああ、調度良かったですわ、大佐。
 今呼びに行かせようと思っていたところです。」
 ナタリアはそう言うと、当然の様にジェイドに服を手渡す。
「これを着ていただきたいのです。」
「私は、陛下にお話を伺いに参ったのですが…。」
「話しをなさっても、服は着用可能ですわ、はい、これも。」
 靴から何からひと揃え渡されて、ジェイドは溜息を付いた。ひそりと横にいたピオニーが耳打ちをする。「大人しく従った方がいいぞ。俺も最初は抵抗したが諦めた。」
 そう言うと、ティアが持ってきた服を大人しく被る。やれやれ…ジェイドも溜息を付いて、ナタリアに顔を向けた。
「では、ここで服を脱ぎます…いいですか?」
 途端、ナタリアは頬を赤らめて同じく動きを止めたティアと、興味津々のアニスの首根っこをひっつかまえて部屋を出て行った。


「私が此処を離れた日に、体調を崩されたと聞きましたが。」
「はぁ?いつの話だ、それは。」
「1ヶ月ほど前でしょうか?何か拾って食べませんでしたか?」
「…お前、俺を何だと思ってやがる。」
「ぶうさぎ小屋にお住まいの方だと思っております。」
 唸って動きを止めたピオニーに従業員が、装飾品を取り付けていく。「ジェイド…が旅に…なぁ…。」
 
 従業員から手際よく渡される服に腕を通しながら、二人の会話は続いていたが、皇帝の記憶は蘇らない。

「はい、こちらへ来てくださいね。」
 後ろに壁一面スクリーンが貼られた場所の前に連れて来られ、お互いの服装を確認して、ピオニーが笑い出した。
「お、お前、場末の手品師みてぇだな?」
 腹を抱えて大笑いをする皇帝陛下に、ジェイドは眼鏡を押し上げながら溜息を付く。
 真っ白な上下のタキシード。装飾らしい装飾は殆どないが、仕立てと品の良さは元々綺麗な顔立ちをしている彼によく似合う。胸元には、彼の目と同じスカーフが入れられていた。
「そうですね、貴方はお似合いですよ。…ウエディングドレス。」
「げ…!?」
 褐色の肌に合う純白のウエディングドレス。胸元がビスチェ、身体のラインに添った細めのシルエットで裾はマーメード。二の腕まで伸びたロングの手袋をはめた手に緋牡丹のブーケ。勿論、シルクの光沢と贅沢に施された刺繍は一級品。
 豊かな金髪には、ティアラによってとめられた絹のペールが長く床に流れている。
「嗚呼、お美しいですわ。」
 ほぅという溜息と共に吐き出される世辞の欠片も含まない讃辞に、店中の賛同を得た。この恐ろしい程『お似合い』の美網秀麗なカップルには、さすがのパーティーメンバーも声を失った。

「目出度いので末広がりにしてみました。」
 末広がりとは『なんぞや』と疑問を解決する間もなく、邪魔にながいベールを蹴り飛ばしながら、二人は様々なポーズをとらされ、その度にシャッター音が響いていた。

「…で、何か思い出されましたか?」
「ううん〜〜〜〜?????」
 
 
「じゃあ、花婿さんが花嫁さんに軽く口付けしてみて下さい〜〜。」
 被写体が絶品だとテンションが上がるのか、写真機関を操る職人もノリに乗っている。何枚写せば気が済むのか。しかし『言うことを聞いていれば、いつか終わる』の精神になっている二人も言われた通りのポーズをこなしながら会話を続けていた。
 椅子に腰掛けたピオニーの唇に、ジェイドが触れた途端、花嫁は奇怪な声を発して立ち上がった。

「あ〜〜〜〜!!!思い出した!!」


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