女の子ぴお・4 「よく来たな、ルーク!」 抱き付かんばかりの勢いで、王座から飛び出してきたのは、マルクト帝国女帝ピオニー。彼女の近頃のお気に入りは、キムラスカ王家に連なる男子『ルーク・ファン、ファヴレ』(次点は、彼の被験者である鮮血のアッシュ) どれほどに気に入っているのかと言えば、彼女の可愛らしいペットに『ルーク』の名が冠されるほど。 スルリと青年の腕に自らの腕を巻きつけて、擦り寄る。金髪碧眼の美少女に抱きつかれて反応しない奴は男じゃない。髪から鼻腔を擽る香りがして、ルークの口元が緩んだ。 「もう、ルークったら…。」 俯き呟いたティアの言葉を聞き逃さず、ジェイドはクスリと笑う。 「嫉妬ですか?」 「ち、違います。大佐。私は、ただ…。」 「ねぇねぇ、大佐!あの二人はお付き合いしちゃってるんですか〜?」 ルークに嫁いで玉の輿を狙っているアニスがそう尋ねると、ジェイドは顎に手を当ててう〜んと考えるふりをしてみせる。 「陛下が彼を気に入っていらっしゃるようなので、気を効かせたキムラスカの貴族の方が結婚を勧めていらっしゃるとも聞き及んではいますが。」 「はうぁ!?そうなんですか!?」 チラリと視線はナタリアへ向けられた。溜息とともに彼女は頷く。 「ええ、世界がこんな様子ですので、二つの国が友好を結ぶ方が先決との意見も出ているのも確かですわ。その場合、私とルークの婚約は破棄すると父上も申しておりましたから。」 アニスは腕を組むとう〜むと唸る。恋敵が、皇帝では勝ち目はない…ならば 「披露宴の時に、お金持ちをゲットすればいいのよね!」 皇族同士の結婚式。招待客の面子もそうそうたる顔ぶれになるのは必須、こんな機会を逃す手は無い。 「成程、良い考えですね〜アニス。」 「は〜い。大佐。」 にこにこと微笑みあう二人の横、ガイは非常に不安そうな顔で佇んでいた。 欺瞞だ! ガイはグランコクマの中心で何度も叫ぶ。もちろん、心の中でだが。 ジェイドはいわば厳格で口うるさい父親そのもの。お年頃の今や花と咲き乱れる娘を捕まえて、門限は4時などと言い出す状況が読めない中年親父そのものだ。 沈着冷静聡明な旦那が、陛下の事となると眼の色が違う。そして、それに巻き込まれるのは、どう考えたって自分なのだ。 ふうと溜息を付いたガイを見遣り、ピオニーが小首を傾げる。さらりと金髪が揺れ、上目使いで己を覗き込む少女は確かに可愛い。ロリコンではない、断じて違うと言いつつも、見惚れてしまうのが男というものだ。 ピオニーの表情が小悪魔のそれに変わると同時に桜色の唇をつんと尖らせた。 「どこみてんのよ。」 アーモンドの形になった水色の瞳は悪戯めいていた。胸のチューブトップを中指でつつと上げてみせる。 いや、あの陛下…そんな事をなさらなくても胸の谷間は存在していませんから…。 「不潔…。」 ボソリとティアが呟くのが聞こえた。先程からルークを独り占めされてご機嫌は斜めなのはわかるが、一体俺が何をした!?ガイは心の中で嘆く。 「全く…殿方というのものは、どうしてこう節操がありませんのかしら?」 いやいや、貴方のアッシュも男です。 「ここは、人目が多くていけないな。ルーク、俺の自室で話をしないか?な?」 言うが早いか、ピオニーはルークと腕を組んだまま扉へ向かう。 「はぁ…あ?。」 今ひとつ事態が飲み込めないルークは、いいっすよ。などと言いながら陛下のなすがまま歩き出す。 ま、ま、ま、ま、待て、ルーク!! お前はわかっているのか、陛下の部屋でふたりきりで話しをするという事の意味が。ああ、そうだろう「別に何もしてないし?話するだけだろ?」お前はきっとそう言うよな。うんわかるぞ。七歳児のお前に何が出来るとも思わない。 俺はな!?ここが大事だ、俺はだぞ!たとえば…たとえば、あの…。 「ガ〜イ。」 低い猫なで声。途端、背中に嫌な汗が流れ出し、ガイの表情は強ばった。 つつ…と背中に流れ落ちる冷たいものを感じながら振り返る。薄く笑ったジェイドが眼鏡を押し上げながらガイを見て微笑んだ。 「後で陛下の私室にお茶でもお持ちして下さいね。」 「…………はい。」 本来ならば、メイドの仕事。ガイの方とて百も承知だ。 二人の邪魔と会話の内容を偵察してこい。 自分で行きゃあいいだろう。と腹の中で悪態を付きながら、能面の如き笑顔に見つめられ出来ませんとは言い出せない。 はああと大きく溜息をつき背を丸めたガイにティアが声を掛けてきた。 「あの…大佐の用事が終わってからでいいのだけれど、話たいことがあるの…。」 何だかティアの思い詰めた様子に、ガイの嫌な予感は増した。 〜To Be Continued?
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