女の子ぴお・2


 それは、空中浮遊中のぶうさぎだった。
うんしょ、うんしょという可愛らしい掛け声と共に、宙にぶらぶらした足が左右に揺れる。お腹の辺りに回された褐色の肌が前足の隙間から辛うじて見えている。

「陛下?」
 ルークの声に、ぶうさぎの左耳のあたりから顔が出る。
この国の最高権力者ピオニー陛下。可愛らしい水色の瞳が笑みを形づくった。
「よぉ、ルーク。久しぶりだな。」
「はい、ご無沙汰してます。…って何をしていらっしゃるんですか?」
「可愛いジェイドを洗ってやろうと思ってな、でもこいつ風呂嫌いなんだよなぁ。」
 ぶひぶひと抗議の声を上げるぶうさぎは、ピオニーの言葉に自分の運命を悟ったのだろうか?いきなり彼女の腕の中で暴れ出した。
「あ、こらジェイド!!」
「俺が持ちますよ。」
「すまんなぁ、小さいのに。」
「小さいはよけいですよ、陛下。」
 両手でジェイドを抱え上げて、眉を顰める。そりゃあ、ジェイドも師匠も180は越えてるし、ガイだって…。
「あれ?ガイはどうしたんですか?」
ルークのといかけに、ピオニーはその頬を膨らませる。
「ガイラルディアは、女性恐怖症だからな。用事を頼もうとした時に手が当たって逃げてった。」
「それは、いけませんねぇ。」
 何処から湧いて出たのか、二人の間から可愛くないジェイドの声がした。
「大事な陛下の用事を放り出して逃げ出すと問題ですよ?」
「ジェイド。」
 クスリと笑う美少女は、蒼穹の瞳を細めた
「何だ?お前が手伝ってくれるのか?」
「ええ、勿論ですよ、私の陛下。」
 恭しく跪き、左手に口付けを落とすジェイドを、ルークは胡散臭さの塊を見る目で見つめていた。
「ルーク。私がぶうさぎを連れて行きますので、貴方はガイを連れて来てください。」
「え、ああ。でも何処へ?」
「中庭にあるプールです。他のぶうさぎ達も一緒に洗ってしまいますので、水着を着て手伝っていただけるようお願い致しますね。」
 素直に頷いて、走り出したルークの背中を見ながらジェイドの眼鏡がキラリと光った。



 タオラーと海猿が向かったプールには人影は無い。
「本当に此処なのか?」
「アレ…?どうしたんだろう?」
 首を傾げたルークの背後から、華やかな声が響き渡る。
「あ〜ルークさまぁ」
 アニスの甘ったるい声。可愛いセパレーツの水着を着用。
「い、一体皆どうしたんだ。」
 震えているガイの言葉にティアが答えた。
「ガイの女性恐怖症を治す手伝いをして欲しいって、陛下から…。」
 頬を染めたティアは、胸の飾りと翳りのみを隠した大胆なビキニを身に纏っている。
その横にいるナタリアの水着も、女性下着を思わせるフリルを使ったもの。金髪を中途半端に結い上げた襟足と合わせて、艶っぽい。
「全く、陛下の頼みでなければこんな…アッシュにはとても言えませんわ。」
「な、なななな…!?」
 そんな集団に囲まれ、思わず後ずさったガイの背中は何かに行き当たる。
 頭に左右に団子を作ったジェイドが、太股のあたりにまで入ったスリットを閃かせたチャイナドレスを着込んでいる。形良いとも言える脚には編みタイツ。どこで用意したのか、皆目検討もつかないピンヒールの高さは7センチはあるだろう。
 2メートルを越す女装。これが美人なのだから始末が悪い。ガイの背中に、脂汗がしみ出て来る。

 救助してくれ!今此処で俺を!海猿の言葉は宙に消える。

「何考えてんだ、旦那!!!!!」
「陛下にお願いされましたので、私も協力して差し上げようと思いまして。」

 いやいや虐めだ、ただの虐めだ。
 ガイの脳裏は、壊れた再生音機関のように同じ言葉を繰り返している。頭もいやいやと左右に振り続けていた。
「陛下。貴方のお心遣いにガイが感動のあまり震えていますよ。」
 流石にここまで来ると、騙されていたことにルークも気が付いたが、ティアのあまりにも大胆な水着に目が放せなくなってしまっていた。
「そうか!それは良かったな。」
 ナタリアとティアの後ろから、ピオニーが姿を現した。胸のまわりにバスタオルを纏っている。
「俺も、協力するぞ!」
 じゃん!という掛け声と共に、外されたバスタオルの下は紺色のスクール水着。
わずかな膨らみの上には、ご丁寧に名前を書いた布が張り付けられていた。
「きゃわ〜陛下マニアック!」
 アニスの叫び声。スゴイですわねぇと感心したようなナタリアの声。
「おやおや、誰ですか、こんな趣味の悪いものを用意したのは」
ピオニーは両肩の紐を手で直しながら首を傾げる。「サフィールに貰ったんだが…似合わないか?」
「あいつですか…、お仕置きをしなければなりませんね。」
「可愛い…vvv」
 わいわいと盛り上がるルーク一行が、卒倒したガイが、プールサイドから足を滑らせて水の中に落ちたあげくに後頭部を打ったのか、興奮したのかわからない鼻血を出したまま、意識不明になっていた為にプールが血塗れになっていた事に気付くのは、もう少し時間がたってからだった。


死ぬよ(笑


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