女の子ぴお・1


 爺だと思っていた。イメージはやっぱり叔父貴だろう。
 あの、死霊使いが陛下と敬愛する相手なのだから、爺のくせに筋骨隆々の偉そうで、豪快な奴だと思いこんでいた。

 なのに…。

「ちょっと、俺に見せて。」
「へ、陛下…あの…。」
 ルークの目の前には、金髪碧眼の美少女。
 軍部で用事があると、パーティを離れたジェイドを待つ形でグランコクマの宮殿に滞在していたルークは、暇も手伝って宛われた客室を出て、外で剣の練習をしていて、勢い余って、捻挫をしてしまった。そこに居合わせたのは、マルクト帝国皇帝ピオニー9世。
 ピオニーという響きは、ある言語によると『芍薬』と呼ばれる花の事をいうらしい。綺麗な花の名を持つだけはある愛らしい少女。
 スラリとした褐色の肢体を、覆う布は少な目で彼女の細くてしなやかな体型を如実に示し、短めの上着から、自分よりも遙かに細い腰と臍が露わになっている。
 その彼女に密着され、両手で腕をとられると、『七歳児』と呼ばれるルークですら思わず目を奪われる。
 頬を赤くして黙り込むルークを気にすることなく、ピオニーの唇は譜歌を紡ぎ出した。澄んだ声が響くと、柔らかな気配が怪我を癒していく。
 ルークは目を見開いた。
「陛下は…第七音譜術士でいらっしゃるんですね。」
「お前、敬語が下手だな。使い慣れてないんだろう?」  クスクスと笑みを浮かべて、頬を赤くしたルークを見つめた。そして、蒼い瞳でじっとルークを見つめながら頷く。
「マルクトは譜術が盛んな国だ。嗜む程度にな。もう平気だろ?」
 ピオニーに言われて、軽く振ってみれば何ともない。嗜むどころか、立派なものだ。
「はい、もう大丈夫です。」
「無茶をするなよ。練習で怪我をしていてはつまらないだろう?最も、虐められたら、いつでもこっちに住んでもいいからな。」
 ピオニーはそう言うとにっこりと微笑んだ。
「陛下…。」
 改めてお礼を告げる為に、少女の手を取ろうとしたルークは、何かに弾かれた。
気が付くと、自分は地面に突っ伏し、呑気な皇帝の声が上から聞こえる。
「ジェイド、用事は終わったのか?」
「はい、陛下。」
「ちょっと、待て!!」
 ルークの抗議にピオニーを横抱きにしたジェイドが、見下ろす。
「これは気付きませんでした。大事なマルクト皇帝に悪い虫がつくと思い、急いでいましたので。」
 迫力ある笑顔が上から落ちてくる。
「そう思うなら、俺の上から脚を下ろせっつうの!」
 ジェイドの腕の中でピオニーは、『面白かったのに』と頬を膨らませた。ジェイドは、めっと顔を歪めて見せる。
「陛下、お戯れが過ぎますよ。」
「ジェイドが遊んでくれないからな。ルークと遊んでただけだ。」
 そう言うと、ピオニーは首に腕を回し、頬に口付けを落とす。
「もっと俺と遊べ、ジェイド。」
「ご命令とあれば。」
 微笑むジェイドの返事を受けて、ピオニーはまさしく花が咲いた様な笑顔を見せた。そして、自分を呼ぶ声にふと廊下を見る。アスラン少将が書類を片手に待っていた。
「下せ、アスランが呼んでる。」
「では、後ほど。」
 細い腰に手を添えて、ピオニーを地に下ろすと彼女は再度キスを落とす。
「うん。じゃあ折角だから、ジェイド、ルークの相手をしてやってくれ。」
 ひらひらと手を振りながら駆け出す後ろ姿を見送って、ジェイドは柔らかな笑みを浮かべた。そして、さてと振り返る。
 「キムラスカ王家に連なる方に失礼があってはいけませんから、全力でいかせて頂きますね。…ところで、ルーク。先程陛下に何をしようとしていましたか?」
「え、おい?…ジェイド…さ…ん?」
 指を鳴らしながら、笑顔満開で見下ろすジェイド。ただ、礼儀として左手に敬愛の情を示そうとしただけだとひきつるルーク。←一応高貴な人ですから。
何処にいたのか主の危機に駆けつける保護者(ガイ)。
 庭園は緊迫に包まれた。

「陛下。よろしいんですか?庭が消し飛びますよ。」
 躊躇いがちの言葉。後ろを気にするアスランに、ピオニーはクスクスと笑う。
「俺のジェイドを貸してやるんだから、ちょっとした意地悪だ。気にするな。」
そう言うと、可愛らしい舌をぺろっと覗かせた。


あとがき
これでは、ジェイドはロリコン(汗
口調とかは、前回に引き続き男言葉にさせて頂きました。
なんだよ〜こりゃ〜(涙



content/