女の子ピオで雪国


 さらさらの金髪。大きな蒼い瞳。ふっくらとした唇。

 ああ、女の子みたいだな、最初に出会った時もそう思った。でも、大人達の噂話を聞いていると『王位継承者』言葉使いも乱暴だったし、皇太子だとそう思っていた。

 金髪が目に入った途端、雪玉が飛んできた。顔面にヒットする。
「ピオニー…。」
 ジロリと睨むと、後ろのサフィールは縮みあがり、ネフリーは困った顔になり、当の本人は、満面の笑顔で笑っている。
「雪合戦してたんだ。ジェイドもやらないか?」
「なんで、僕が…。」
 身体に散った雪を手で振り払いながら、そっけなく答える。
「いいって、いいって、早くしようぜ!」
 自分の腕を掴み強引に誘う相手の態度もいつも変わらない。そうやって、なんだかんだと丸め込まれて、夕暮れまで遊びにつき合わされる。
 それは、ジェイドにとって近頃の普通であり、日課になっていた。

>  そう、今日違っていたことと言えば、ピオニーが、自分の腕を引っ張った直ぐ後に、凍った雪に足を取られたということだった。
「うわっ!」
 後ろにひっくりかえりそうになった相手に、ジェイドは慌てて手を伸ばす。
マフラーでも掴めたらと思った行為だったが、胸ぐらを思いきりよくひっつかんでしまった。それでも、相手が転ぶよりは良いだろうと思ったのは一瞬、手の感覚は想像していたものとは違っていた。

「!」

柔らかな膨らみ…?
 悲鳴を上げて振り払われて、混乱したまま、体勢を立て直す事も出来ずに衝撃だけがジェイドの頭に残った。

「平気?」
 目が開くと、ピオニーの顔。
逆光と軽い目眩で表情は良く見えないけれど、覗き込んでいる金髪はきっとそうだ。後頭部がずきずきと痛んで、手を伸ばそうとして止まった。
 柔らかな頭の感覚が、膝枕をされているのだと気付いて言葉を失う。

「ごめんね、ジェイド。今ネフリーとサフィールがお医者さんを呼びに行ってるから。本当にごめんなさい。」

 ずきずきする頭よりも、心臓の音が耳に付く。

 ぽろぽろっとこぼれ落ちてくる水滴が顔にかかる。
サフィールが泣いてたって鬱陶しいとしか思えないのに、胸がぎゅっと痛くなった。
「…平気だよ。これくらい…。」
「うん。」
「…女の子…だったんだ。」
「うん。黙っててごめんなさい。」
 別に謝ることでも無いと、言ってやるもりだったけど、ぐっと近付けられた顔が触れ合う程で、吐息が近くてもう声なんて出なかった。

 そっと落とされた額への口付け。手の感覚が蘇るほどの柔らかな感覚。

「ジェイドが平気で本当に良かった。」

蒼い澄んだ瞳から零れ落ちる涙。
その上には、同じ様な澄みきった青空。

晴天霹靂…色々な意味でその通りだとジェイドは心の中で呟いた。


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