無理矢理 「なんで、お前がここにいる。」 部屋の持ち主の第一声がそれ。 「世間には、避けて通れない諸事情というものが存在するのですよ、陛下。」 世界を救う旅をしているはずの、『死霊使い』ことカーティス大佐は、皇帝の私室にある椅子に座ってお茶を飲んでいた。 それの受け皿が置いてあるテーブルには、抱える程の大きさの箱が置かれている。 うわ、胡散臭…。皇帝がそう呟くのを耳が捕らえる。 「某縫製工場に特別注文が入ったという情報が入りまして、帰ってきたんですよ。」 うぐっと皇帝の顔が歪んだ。しまったという表情に、ジェイドは内心ほくそ笑む。 「どうして、貴方がメイド服などを直々にご注文する必要性があるんでしょうか? 貴方は国民の血税をどうお考えなんです?」 「いや…あの…ティアのおすましメイドが可愛くてな…。」←私の趣味です(汗 「それで?」 「ナタリア姫やアニスちゃんも似合うかな…と」 「ええ、似合うでしょうね。 しかし、あれはキムラスカのメイド服ですよ。我が国で作成すると国際問題にまで発展しかねません。おわかりですよね。 その上、どうしてネフリーの分まで注文してあるんですか?」 「…。」 「何度も申し上げますが、あれはとっくの昔に人妻です。それに、どうしたら、貴方が彼女のスリーサイズを知り得るのか詳しく説明を伺いたいですね。」 「…。」 「陛下。」 「…………わかった、皆まで言うな。今回は俺が悪かった、諦めるから。」 「反省していらっしゃいますか?」 「ああ、反省してる。」 狼狽している皇帝に、ふっとこめかみを抑えながらジェイドが溜息をついた。 ここぞとばかりに畳み掛ける。 「誠に残念な事ですが、私としたことが手を打つのが遅れてしまいまして…。一着分の取消が出来ませんでした。」 そう告げて、机の上の箱に視線を移した。嫌そうな顔をした皇帝の視線もそちらへ移行してから話を続ける。 「ですので、貴方に責任をとっていただき、これを着用の上、ぶうさぎ部屋の掃除をお願いしたいと思っております。」 反省の意味も込めてとジェイドは付け加える。ピオニーの目が大きく見開かれる。 「いや、ちょ…まてジェイド…。」 自分の前に突きつけられた衣裳箱とジェイドの顔を交互に見つめる。 「どうしました?国民の大切な税金で作られたものを無駄にするおつもりですか?」 「…そんな事言われても、掃除はまだしも、女物の服を俺が着れるはずないだろう!?」 「陛下のスリーサイズは熟知しておりますから。サイズ変更を連絡しておきました。」 その言葉と同時に、蓋が開けられる。 見慣れた青いメイド服。ニーソックスと、ガーターベルト。 それにショートブーツのひと揃え。 しかし、一見してサイズが大きい事がわかる。 …はめられた!! 「いや、俺は無理…だから…。」 顔色を変えて、ふるふると首を横に振りながら後ずさる。 しかし、直ぐに背中は壁に行き着いた。ジェイドの腕が更に逃げ道を塞ぐ。軍人とは思えぬ細い指がからみつくように上着の胸元を掴んだ。 吐息がかかる程に近くその顔が近付く。 「これ以上我が儘をおっしゃるのなら、無理矢理、逆らえないようにして差し上げてもいいんですよ。」 妖艶な笑みを向けられ、どうやら完全にジェイドの逆鱗に触れてしまったことをピオニーは悟った…が後の祭り。もう腹をくくるしかないらしい。 これだって、充分無理矢理だ。 「……やらせて頂きます。」 「よろしい。」 にっこりと笑ってジェイドは腕の中からピオニーを開放した。 渋々という雰囲気を全身から発しながら、それでもあっさりと上着を脱いで下履きに手をかける。露わになった滑らかな背中に悪戯をしたくなり、しかし今は留めた。 そう、お楽しみはこれからなのだ。 「いや〜仕えるべき方のこんなお姿を拝見出来るとは光栄ですね。それでも、仁王立ちはいただけませんよ。 おすましメイドなので、可愛くお願いします。」 その言葉に、目尻を赤くしながらピオニーが睨む。 青いメイド服は意外なほど彼によく似合った。頭につけるキャップはどうにも付け方がわからず断念したらしいが、短めのスカートから覗く足も、程良くついた筋肉ですんなりと形良い。膝から下の長さも申し分ない。 元来綺麗な顔立ちをしているせいもあり、対象物さえなければ、少し体格の良い女性にすら見えた。 想像以上の出来映えに、ジェイドは緩んでしまう口元を抑える。 「覚えてろよ、ジェイド。」 羞恥のあまり涙目になっているピオニーは、捨て台詞を吐くと彼が用意してきたバケツに雑巾を突っ込んで、絞り始める。とにかく早く終わらせてしまいたい。 しかし、床を拭く為にしゃがみ、スカートの端を抑えてピオニーは何かに気が付いた。 「…やたら、スカートが短い…。」 うちのメイドにこんな性的嫌がらせの制服を宛った覚えはない。 「大切な国民の血税ですから、材料費は節約させていただきました。」 「嘘をつけ!!!!!!!」 能面のような笑顔に、間髪入れずにピオニーがツッコむ。 「やめ…!太股触るな!!腰撫でるな!!」 「ほらほら、口を動かさずに手を動かす。」 ジェイドは覆い被さるように身体を重ね、雑巾の上に置かれたピオニーの手に自分の手を重ねる。 「だいたい、こんな格好、誰かに見られでもしたら…。」 「それは大丈夫です。半日は人払いがしてありますから、どんなに声を上げても問題ありませんよ。 …さぁ、いきますか?」 にっこり笑う鬼畜に、皇帝陛下から声にならない抗議の声が上がったのは言うまでも無い。 〜fin
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