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◇なんとなくの悲恋バージョン。

 
「俺は、自分が育って来たこの国が好きだ…だから、それを蔑ろにして、皆を騙す手段になるなんて、絶対に嫌だ。」
 一言々噛み締めるように言葉を続ける。
 そう、これを言い終わる時には、準備がなされていなければならないのだ。
 うっかりと彼らが自分に手渡したもの。後ろ手に引き出されるそれが、確実に急所を狙えるように。

「聞き分けがありませんね。もう儀式が始まってしまいますよ。」
 アスランが近付く。

 俺の為に誰も傷つかないように。
「…お前らなんか、大嫌いだ。」
 相手を見据えて笑ってやった。


 ああ、もう一度だけ…あいつに。


 
 血塗れの金髪。正確に頸動脈を狙って下ろされたのだろう儀礼用の刃は床に転がっていた。
 白い衣裳は赤く染まり、それに包まれているのはただ冷たい骸。彼だったもの。
 その美しい蒼穹の瞳が開く事は二度とない。
 
 ジェイドは血にまみれた頬に己のそれを寄せた。微かな笑みを浮かべる。
「すみません、遅くなってしまいましたね。迎えにきましたよ。」
 自らも血に染まりながらジェイドは彼を抱き上げた。眠っているような唇に口付けを落とす。

「貴方は、これが望みでしたか?将軍閣下。」
 呆然と床に座り込んでいるアスランにジェイドは微笑んだ。
「ここまで、彼を追い詰める事が貴方の望む事でしたか?」

 その場にいる人間は誰ひとり、扉に向かう死霊使いの歩みを止めようとするものはいなかった。
「ディスト、来なさい。」
 ガイやルークと共に、立ち竦んでいたディストは、引き寄せられるようにジェイドに近寄る。
「まさか…あれを完成させるのですか…?」
 呟いた言葉に、ジェイドは嗤う。ディストの瞳が驚愕に見開かれた。
「いいのですか?それでも…偽物…ですよ…?」
 くくっとジェイドが喉を鳴らした。
「何がいけないのですか?どうせ、彼は皇帝の偽物です。」


 それからほどなく、人気のない森で不思議なものを見かけると噂がたった。
 類い希な美貌、透き通るような金糸と、青空の瞳をもった人間。
 しかし、話しかけても言葉を知らず、ただ笑みだけを残して立ち去るという。
 そこは、死霊使いと下僕が消えた場所。


最後はレプリカのぴさま。
死んでからはつくれないとか、ツッコミは無しの方向で(笑


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