お見合い編


 森の中を進んでいくと、関が見える。
 そこが何なのか直感して、方向を反転をした青年の顔色が変わったのと同時に、彼を囲んでいた兵士の中にいた銀髪の将校は眉を潜めて困った表情を作る。
「ご無事で何よりでした、陛下。心配しましたよ。」
 陛下と呼ばれ、思いきり顔を歪めた青年は、後ずさろうとして後ろに回り込んでいた兵に取り押さえられる。
「どうして、そんなに私達を困らせるのですか?」
「俺には関係無い!お前らだけで勝手に困れ!」
 一息に叫んで、伸ばされた手を拒む。
 更なる罵倒と嫌悪の言葉を発する口を青年将校の手が塞いだ。動揺を必死で瞳の奥に隠している青年と目が合うと、これ以上ないというほどの優しげな笑みを浮かべる。元々童顔な顔立ちにそれはよく似合った。
「失礼します。」
 一礼して首筋に当てられた手と共に、頭は無抵抗に前に垂れた。



 遠目から、ガイとルークを囲んでいたらしい兵士達が速やかに撤収していくのが見えた。タルタロスもなんの未練もなくこの場を立ち去る。
 軍用艦も彼をグランコクマへ連行する為に用意されたものらしいと推測してジェイドは冷ややかな表情を見せる。
『やはり、逃げ切れなかったようですね。』
 一人語ちて、ジェイドは溜息を付いた。罪悪感など感じる必要性は何処にもないのにも係わらず、奇妙な感覚だけが残る。
「何なんだよあいつらは…。」
「さあな?そういや旦那、さっきの奴は?」
「さあ?」
 食えない笑顔と共に返された答えに、ルークはふーんと呟いた。
「どうかしましたか?」
「いや、これそこに落ちてたんだけど…。」
 そう言うと、指の先に碧い宝石を翳してみせた。
「ああ、確かに彼のもののようですね。」
 ジェイドがそう口にして、手を差し出す。ルークは有無も無く提出させられる。
「成程、私も帝位継承の儀式を見てみたくなりましたよ。」
 自分の掌のそれを暫く見つめていたジェイドがぽつりと呟くと、その言葉に、ガイとルークの目が間抜けなほどに見開かれた。


 まさに晴天の霹靂。
あの、『死霊使い』が『グランコクマの観光』だなどと、ナタリアやアッシュに訴えたとて信じて貰えないのではないだろうか。
 ルークは、そう思いながら、目の前で静かに夕食を口にしているジェイドを眺めた。余りにもじっと見過ぎていたせいで、隣に座っているガイに肘でつつかれる。
「な、なんだよ。」
「ただでさえ、視線が痛いんだ。早く食べてくれ、ルーク。」
 見るとガイはもう食事を終えて、酒を口にしていたし、ジェイドも口を拭いているところだった。
 ガイの言う痛い視線とは、店の中にいる客と店員。連れが『死霊使い』であることは、一瞬にして町中に知れ渡ってしまったようで、迫害こそされないが歓迎ムードでは無い。やっかい事は早めに出てくれと言わんばかりの対応だった。
 彼は確かに気の置けない友人ではあったが、そこまで毛嫌いされるような人物では無いことをルークは知っている。
 街の人々の態度は面白い者ではなく、腹立ち紛れに料理にフォークを突き刺すと、刺さり損ねたイケテナイチキンは意思を持ったように宙を舞った。
「あ…。」
 着地点に目を向けると、その横に写真が飾られていた。ジェイドの視線もそちらへ向けられていることに気付き、ルークはそれを見つめた。
 飾られている古びた写真立てには、金髪碧眼の幼い子供が写っている。
「あれは、どなたですか?」
 ジェイドが、遠巻きに見ている客達に問いかける。ざわりとしたが答えは返らない。
「あれは、今度即位なさるピオニー陛下の幼い頃だよ。」
 恰幅のいい女性が面倒くさそう答えを返した。
あんたには関係ないだろう…そう呟くのが聞こえて、ガイとルークは顔を顰めたがジェイドは意に介した様子も無い。謝礼の言葉を口にして、残ってる酒を飲み干した。
「なあ、ガイあの写真。」
 声を潜めたルークに、ガイはああと頷いた。
そして、ジェイドに視線を送る。
「旦那は知ってたのか?」
「さて、何の事ですか?」
 にこりと笑い。ジェイドは席を立った。
「旦那?」
「私と一緒ですと、宿も取れませんよ。暫くぶりに訪れましたのであちこち見てまわりたいので、明朝こちらでお会いしましょう。」
 笑みを崩さずに、出ていくジェイドを見送ってからルークは、食い物を勢いよく口に詰め込み出す。
「おいおい、喉につまるぞ。」
 ごっくんと派手な音を立てて飲み込むと「ジェイドをおいかける」と告げ、さらにスピードを上げた。


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