indications of put an end 「パパを虐めるな!」 トイレに連れ込まれて、最初に放たれた一言はそれだった。 ピオニーは、う〜んと顎に手を当てて少々考えてから、赤毛の子供の言葉を反芻する。 「俺が虐めてる? ファブレ侯爵を…か?」 その通りと、片方は眉間に皺を寄せ、片方はその背中から目を潤ませて訴えてくる。 「え〜と。事情がよく飲み込めないんだけど。」 そう答えたピオニーにアッシュはビシッと指を差し「この屑!」と言い放つ。指先が震えているのは、ご愛敬だ。ピオニーが膝を折って、子供の顔を正面で捕らえると、途端震えが大きくなった。 やれやれと手を上げると、驚いた事にそれまで後ろに隠れていた方が庇うようにピオニーとの間に立ち、手を広げた。 「あ、あ、あ、アッシュも虐めちゃだめだ!」 ぶるぶる震えて、涙で訴える子供にピオニーも思わず苦く笑う。 「俺は何もしてないだろ?」 「けど、あの鬼畜眼鏡がっ!」 アッシュの叫びに、ピオニーは目を丸くした。鬼畜眼鏡…ジェイドの事だろうか。なんとも言い得て妙で、ピオニーはくくっと笑う。 「なぁ、おふたりさん。ジェイドがファブレ侯爵を虐めたのか?」 「殴ったり、叩いたりしてる訳じゃあないよ。でも、にっこりと笑うと恐いんだ!」 「あいつみたいな奴が、笑顔で人が殺せるって言うんだ!」 可愛い告げ口に、ピオニーは最後に吹き出した。涙でべたべたになっているルークの頭に手を置き、くしゃくしゃと撫でてやる。アッシュは、涙は浮かべていたが、どうやら必死で堪えているようだった。 「ジェイドは、確かに恐いかもしれないが、お前らのパパを守る仕事をしてるはずだぞ? アイツが来てから、パパは虐められる以外に恐い目にあっているか?」 ふるふるとルークが頭を横に振り、ぼたぼたっとまた涙が服に零れ落ちる。 「ならまぁ、少しばかりパパを虐めるのは勘弁してやってくれ。怪我をするよりいいだろう? きっと、心配だから色々煩い事を言ってるだけだよ。」 コクリと頷く子供を眺めて、ピオニーはクスクスと笑う。 「よくお前、あんな鬼畜眼鏡と友達をやってるなぁ。」 腕組みをしたアッシュに、考え深げに告げられてピオニーは苦笑いを浮かべた。 → content/ |