indications of put an end


 咳き込むアッシュの背を暫くさすっていると、不機嫌そうな顔で顔を上げた。
「屑…何難しい顔してやがる」
「…ああ…。」
 犯人を取り押さえられなかった。相手の意図もわからず危機は去ったとは言いがたい。
 けれど、それとは全く別の違和感がピオニーの脳裏を支配していた。

 何かが違う。一体何が…。
 
 狙われていたのは『ルーク』だったはず。だからこそ、ジェイドはルークを先に安全地帯に連れていったはずだ。掴まえたルークを抑え込み、直ぐに連れて行こうとしなかった男を思い出して、ピオニーは顔を顰めた。
 あの男はまず、何をした? そう考えたピオニーはふいに思い当たった。
 
  犯人達が狙っているのは、人間じゃないとしたら?

 そう閃くと、筋道はあっという間に繋がった。
「だからどうした? 屑。」
 小生意気な子供が、ピオニーを見上げて眉間に皺を寄せた。
「アッシュ…。ルークが着ていたのはお前の上着だよな?」
 何故そんな事を聞くのだと言わんばかりに、皺は増える。しかし、ピオニーは膝を折り、アッシュの顔を覗き込む。
「大事なことなんだ、アッシュ。今お前が着ている制服は、ホテルで会ったときのものと同じだな?」
 真剣なピオニーの表情に、流石のアッシュも生意気な態度を潜める。コクンと頷く子供に、ピオニーは目撃したときに彼等がしていたように、襟元にゆっくりと掌を差し込み、右から左へと滑らせた。
 柔らかで上質な手触りが、突然何か固いもので途切れる。慎重に指先で摘んで掌にのせると、爪の先ほどのメモリーチップ。
 見たことがある。携帯の外部メモリーとして自分が使用しているものと同じだ。小さな器械なのにも係わらず、200M保存可能な優れものだ。
「これって…。」
 驚きが言葉になる前に、ピオニーは告げた。
「…これは、俺の携帯から落ちたんだよな、アッシュ?」
 アッシュの目が一瞬真ん丸になるが、賢い子供はコクリと頷いた。ピオニーは自分の携帯を取りだし、チップを入れ替えた。そして、元通りにアッシュの襟元に戻す。
「あそこ戻ってみよう。」
 そう告げると赤毛の子供は走り出す。慌てて追いかけたピオニーは、アッシュの告げるあそこが、楽屋であった事に気付かなかった。
 もしそうなら決して近づかなかったのに…と、拳銃を突きつけられた状態で思う。

「見た顔だったんでね。あんた。」

 事件現場で必ず顔を合わせた男からそう告げられ、ピオニーは唇を噛み締めた。

→抵抗する
→抵抗しない


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